■朝に寄り添う、木彫り熊のコーヒーメジャースプーン
(文・立田栞那/スロウ81号掲載/北のものづくり人)
朝起きて、まだ眠たい頭と身体を覚まそうとコーヒーを淹れようとするそのときに。こんなにも愛らしい、木彫り熊のメジャースプーンが傍(かたわら)にあってくれたなら。緊張する予定が控えている朝も、なんとなく元気が出ない朝も、気持ちがほっと緩むでしょう。このスプーンの作り手を訪ねてみたらそこには、作品とお揃いの朗らかな笑顔がありました。
北海道を代表する陶芸家の一人、柴山勝さんを父に持ち、幼い頃から作家と触れ合う機会が多かったという笹田陽さん。「大変さも間近で見てきたからこそ、自分も同じ道に進もうと思ったことはなかった」そうですが、今から2年ほど前、雑誌で見かけた木彫り熊にすっかり魅せられてしまいます。八雲町木彫り熊資料館や「木彫り熊と本 kodamado(本誌73号掲載)」に足を運んだところ、琴線に触れるものが。ちょうど自宅に選定した桜の枝があったことを思い出し、八雲から帰ってすぐ、その枝を使ってスプーンを彫ってみました。「本当に見よう見まねで上手にはできなかったけれど、ものすごく楽しくて。『あ、私ずっとこれをやっていくことになるな』っていう感覚があったんです」。その瞬間から、陽さんのものづくり人生が始まりました。
当時はフルタイムで別の仕事をしていたため、作業ができるのは仕事と家事を終えてから。息子が使っていた勉強机を作業台にして、夜な夜な木彫りに向かう日々。「そんな生活が本当にまったく苦にならなくて。楽しくて仕方なかった」と笑顔で話します。木彫りを始めて1年ほど経った頃、前述のkodamadoやはこだて工芸舎などで作品を扱ってもらえることに。そうした店舗の人たちの協力があって、陽さんの作品を求める人がじわじわと増えていきます。次第に、夜の僅かな時間では制作が追いつかなくなり、「今しかない」と思い切って仕事を退職。2024年の夏、本格的に作家活動を始めるに至ったのでした。
そんな新たな日々については、「幸せ過ぎて」と晴れやかな笑顔。朝も昼も夜も、木彫りと向き合えることがうれしくてたまらない様子です。そんな「楽しい」という気持ちは、生み出すものに宿るものなのでしょうか。陽さんが見せてくれる木彫り熊たちは、眺めているとつられて口角が上がるような、なんとも言えない良い表情をしているのです。メジャースプーンをはじめ、フルーツを食べるときに使うピックやサラダを盛り付けるカトラリーなど、朝の食卓で活躍するものが多い、陽さんの作品。それは、「一日の始まりに気持ちがほっとする時間がありますように」という願いから。「ささやかなものかもしれないけれど、そういうものが作りたい。作れたら良いなと思うんです」と話してくれました。
写真上/「木彫りについては、まだまだ修業中。道具の扱い方も我流だけれど…」と、スプーンづくりの様子を見せてくれました。材の個性を活かしながら彫っていきます。
陽さんが暮らすのは、道立自然公園にも指定された恵山の近く。山と海に囲まれた自然豊かな場所で、陽さんの自宅のすぐ裏手にも小さな山があり、日常的に山菜やキノコ採りなどを楽しんできました。ものづくりを始めてからは、山や森との向き合い方に小さな変化が。これまで何気なく目にしていた自然のモチーフが作品のヒントになったり、「木を彫っているのだから、もっと木のことを知りたい」と、林業研修に参加してみたり。「林業に携わる人の姿勢にすごく感銘を受けて。私も木を大切に、無駄なく使っていきたいと改めて感じました。木彫りをする中で出る木屑も全部捨てずに溜めていて、今度染め物に使ってみようと考えているところです」と、まっすぐに話します。
そして最後に、こんなエピソードも。「今年に入って、小笠原でコーヒー豆の栽培から焙煎までを手がけている方と知り合って。『農園の木を使ってスプーンを作ってほしい』と相談をいただきました。農園で役目を終えた木が形を変えて、再び農園に帰っていく。制作はこれからですが、その循環に携われることが今からうれしくて仕方ありません」。森で生きてきた木が、形を変え、また誰かの日常の中で活きていく。木から道具へ、森から暮らしへ。この先陽さんが目指すのは、「人と木とを繋ぐものづくり」。周りの人と自然への感謝を心に留めて、自らのものづくり人生を楽しく朗らかに、歩んでいくことでしょう。
■商品紹介
熊の表情に気持ちが緩むメジャースプーン。「自立する」というのは衛生的にも安心ですし、スペースをとらないのもうれしいところ。実用性と見た目の愛らしさを兼ね備えたメジャースプーンです。形は、「バンザイ」と「逆立ち」の2種類(こちらは「バンザイ」の購入ページです)。樹種はクリとクルミ。いずれも厚沢部の材木屋から仕入れた道産材です。
スプーンの大きさや熊の表情、木目など、作品によって絶妙な違いが。手づくりならではの個性として、一点モノとの出合いをお楽しみください。
写真上/左が「クリ」、右が「クルミ」
写真上/クルミ
写真上/「クルミ」
写真上/個体差があります。布の上など不安定な場所では自立しない場合があります。
写真上/左が「バンザイ」、右が「逆立ち」、樹種は両方クリです。
■作り手 YOUSUN 笹田陽さん(函館市)
伊達市で生まれ、高校卒業後は進学を機に一度は東京へ。その後、結婚を機に恵山で暮らし始め、さまざまな仕事を経験した後、独立。2023年より自身の名前をベースにしたYOUSUNという屋号で活動しています。
■商品詳細
商品サイズ: 全長約11cm(持ち手:約6cm)
商品素材: 樹種/クリ、クルミ 塗装/蜜蠟仕上げ
備考:
※手づくり品のため、掲載写真とは多少異なる場合があります。
※受注生産です。1ヵ月ほど時間をいただきます。
※引き出しの中や湿気のあるところで保管するとカビの原因になります。ご注意ください。
※表面が乾燥してきたら、生のクルミから搾ったオイル、家庭用の亜麻仁油やエゴマ油などの 油分を塗るとツヤが戻ります。
■レターパックプラス発送(常温)
3点まで同一の送料でお届けします。
※システム上、1点ごとに送料が加算されます。ご注文後、送料を変更して決済いたします。
■お届けまでの時間目安
受注生産です。ご入金確認後営業日1ヵ月で発送予定。
■熨斗
対応不可