■きっかけはジンギスカン。東京で働くサラリーマンから、北海道の羊飼いへ
(文・仰木晴香/スロウ78号掲載)
「羊飼い」と聞いてイメージするのは、穏やかで牧歌的な暮らし。草野秀剛さんが営むゴーシュ羊牧場を訪れたときも、可愛らしい羊たちと広々とした雪景色を前に、心が和みました。しかしこの暮らしを実現させたのは、大胆な行動力と、経営者としての論理的な思考。のんびりとした風景を眺めながら聞くその背景に、ギャップを感じざるを得ませんでした。
大学では物理を専攻し、卒業後は東京でシステム関係の仕事と、農業とは遠く離れた分野に身を置いていた草野さん。羊に関する経験といえば、子どもの頃に母の実家がある旭川でジンギスカンを食べたことぐらいだったそう。しかし仕事で訪れた札幌で久しぶりにジンギスカンを口にしたことをきっかけに、「羊飼い」という暮らしへの憧れを抱くようになりました。「子どもの頃に食べたしょっぱいジンギスカンと、大人になって札幌で食べたものは別ものだったんですが、羊肉の匂いなど、共通する部分があったんです。もう北海道には10年以上行っていなくて縁が切れたタイミングで、改めて食べたときにすごく懐かしいというか、蘇る感覚があって。それで羊と一緒に暮らせたら素敵だな。と直感ですね」。
とはいえ何をすれば農家になれるのかも、羊農家がどこにいるのかも知らない、ゼロからのスタート。まずはきっかけをつかむため、会社を辞めて帯広畜産大学へ入学しました。そして2年目の夏、白糠町で「羊まるごと研究所」を営む酒井伸吾さん(本誌65号掲載)に出会い、研修を開始。その生活は、山の中の廃バスに住みながら牧場へ通いつつ、さらに知り合いの羊を管理するという、傍から見れば過酷にも思えてしまうもの。しかし草野さん自身は苦に感じていなかったそう。「大変ですって感じではなかったんだよね。なんでだろうね、やりたくてやってたからかな」。ノルマや締め切りに追われていた会社員の頃と違い、自分で決めた目標に向かって進む日々は、草野さんにとってしっくりくるものだったのです。研修を始めてから2年半が経った2009年、放牧にぴったりな土地も見つかり、上士幌で「ゴーシュ羊牧場」を始めました。
■考え抜いて作った羊舎で作業性と羊の健康を両立させて
思い立ってからわずか4年で羊飼いの暮らしを手に入れた草野さん。就農後も、自分にとって最適な経営を考え続けてきました。それを形にしたのが、8年目にセルフビルドで建てたという羊舎です。
草野さんが就農した土地は酪農家の跡地だったため、いくつかの牛舎はありましたが、羊を飼うには暗い上に湿気も多く、管理に手間もかかっていました。「頑張ってやっていたんですが、不都合が多くて。どうせならしっかりしたものを作ろうと決めました」。羊の毛刈りの仕事を通して北海道各地の羊農家を訪ね、羊の飼い方や羊舎を観察。自分の牧場の経営や羊の状態を相対的に把握しながら、理想の羊舎の構想を練り続け、2017年の夏に完成させました。
羊舎を建てる上で大切にしたことは2つ。1つ目は羊を健康に飼うこと。飼養頭数を最大で300頭と決め、それに合わせて羊舎も300坪で設計しました。同じ面積でより多くの羊を飼うこともできますが、密な状態で飼うと環境が悪化してしまうため、広々と飼育することで病気の発生を予防しているのだそう。また餌やりで羊が一列に並んだときに状態を見るなど、日々の作業と同時に、羊の観察を入念に行っています。
2つ目が作業効率を高めること。寝藁を敷く、水や牧草を与えるなどの毎日の作業をスムーズに進められるよう動線を整えました。さらに、個体の大きさや、出産から肥育を経て出荷するというライフサイクルに合わせて管理できるよう、羊舎の中は細かく区切られています。1人での管理でも経営できる飼い方を模索した答えが、この羊舎なのです。
■羊肉の美味しさをとことん味わえるように
羊を出荷するタイミングは「仕上がったとき」。肉の付き方や脂のしまり具合を触って確認し、枝肉の状態を想像するのだと言います。「飲食店に羊を出してフィードバックをもらったり、実際に枝肉を見て、調整してきました」。経験と評価を積み重ね、羊の肉としてのクオリティを高めてきたのです。
そんな草野さんが加工品を作り始めたのは、2020年のこと。コロナ禍の影響で思うように羊が出荷できなくなり、新たな販売手段として作り出したのが小羊包です。羊肉と玉ねぎで作った肉餡を小麦粉の皮で包んで蒸す、素朴なようで手間のかかった料理。ヒントになったのは学生のときに訪れたモンゴルでの体験でした。「大学の先生が『羊飼いになりたいなら見た方が良いよ』って誘ってくれて、2週間モンゴルに行きました。そしたら遊牧民のゲルに置き去りにされて(笑)。そのときに食べたものなんです」。草野さんによると、ユーラシア大陸の各地で作られている家庭料理の一つで、モンゴルでは「ボーズ」と呼ばれているそう。乾燥地帯でも手に入るシンプルな材料のみが使われている上、蒸すことでうま味が溶け出さず、羊肉らしさが強く味わえるのだと言います。
現地で味わったおいしさを再現するため、加工先選びも慎重に。効率良く作るために機械化すると、肉を細かいミンチにして肉餡を滑らかにしたり、皮にラードを加える必要がありました。しかし羊肉の風味を保つためには、肉は粗みじんにして食感を残し、余計なものを入れな
いことが重要。それを実現するため、一つひとつを手包みで作る工房に委託しています。
羊肉の味に魅了された草野さんだからこそ出来上がった、こだわりの一品。「羊のお肉が好きな人には気に入ってもらえると思います」と笑顔を見せます。
■ようやく形になった理想の「身の丈」の暮らし
草野さんにとって、今の生活は「身の丈に合っている」と言います。「今の自分の技術で、これだけの頭数、羊のクオリティ、収入、っていうのが身の丈に合ってる。今の状態が、とりあえずの完成形。これでやってくぞって」。羊の群れを見つめながら「だいぶ良い羊になった」と話す様子からは、この「完成形」に辿り着くために試行錯誤の日々を重ねてきたことが伺えます。
夢を叶えたその先も、理想の暮らしを続けるために必要なものを判断し、実行してきた草野さん。持ち合わせた行動力と冷静さで手にした「羊飼い」としての日々を、これからもコツコツと。
■商品紹介
食べた瞬間、もっちりとした皮の中からぶわりと羊肉の香りが。臭みはなく、羊肉らしいうま味や甘みが口いっぱいに広がります。冷凍の状態で蒸し始め、10分経てば出来上がり。肉汁がこぼれないよう、火傷に注意しながらお召し上がりください。
■作り手 ゴーシュ羊牧場(上士幌町)
草野秀剛さん。サフォークをメインに飼養し、繁殖から肥育、出荷までを一貫して行っています。
■商品詳細
賞味期限: 製造より10ヵ月
内容量:630g
原材料:皮(小麦粉、馬鈴薯でん粉、食塩、酒精、サラダ油)、羊肉(北海道産)、玉ねぎ、にんにく、食塩
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