(文・武田愛花/スロウ78号掲載)
食べた瞬間、口いっぱいに広がる濃厚なミルクの風味と甘さ。舌の上ですーっと溶けていく、なめらかな口当たり。スプーンひとさじでも満足感たっぷりで、幸せな気持ちに包まれるような、はまぴりかのミルクジャム。製造しているのは、釧路市に暮らす小川友有子(ゆうこ)さんです。
写真上/トーストしたバゲットに塗ったり、ホットミルクに入れても。イチオシは、一日の終わりにそのままひと口。はまぴりかでは「まぜまぜペロンチョ」というキャッチコピーで、その食べ方を伝えています。
香川県出身の友有子さん。京都で学生生活を送った後、夫の克也さんと結婚し、克也さんの地元である北海道へやって来ました。24年前に浜中町の霧多布に移住し、2年前には釧路に工房を新設。ジャムを作り始めたのは10年前のことです。「3人の娘が家を出て子育てがひと段落したタイミングで、私も何かやろう、という気持ちが芽生えて。そんな時に思い浮かんだのが、ミルクジャムでした」。酪農のまちとしても知られる浜中町。近所に生乳工場があったことをきっかけに、おいしい牛乳をふんだんに使った、北海道らしいミルクジャムを作ろうと決めました。
使用しているのは、町内のタカナシ乳業で生産される、脂肪分4.0%の牛乳と、脂肪分42%の生クリーム。一般的な生乳よりも乳脂肪分が高く、ミルクの味が濃く感じられるそう。それらを時間をかけてじっくり煮詰めることで、ほかにはない濃厚さとミルク感を実現しました。製造過程で一番大変なのは、鍋から目を離さないこと。温度が上がりすぎると乳成分が分離してしまうため、とろっとした軟らかい食感に仕上げるためには、ずっと見守ることが大切なのだといいます。
「素材にこだわって丁寧に作っているので、正直なところ、この価格では利益はあまり出ていないんですよ」とはにかむ小川さん。それでも作り続けるのは、食べた人に幸せになってほしいから。「試食をしてもらうと、いつも驚かれるんです。こんなミルクジャム食べたことないって」。その時のお客さんの表情を見るのが、ジャムづくりにおいて何よりの楽しみなのだそう。
写真上/工房の大きさはわずか3坪ほど。ストーブ台をリメイクした作業台や、趣味で作ったステンドグラスの窓など、随所にこだわりが詰まっています。
たくさんの人においしさを知ってほしいからと、月に1度は東京で開催されるイベントにも出店しています。地道な積み重ねと、ジャムの味の確かさから手に取ってもらう機会が多くなり、今ではその味に惚れ込んでいるという常連のお客さんも増えてきました。時にはお客さんから、「ミルクジャムを食べる朝が待ち遠しいんです」とうれしいメッセージが寄せられることも。食べた人の喜ぶ姿は、友有子さんの大きな原動力になっています。
写真上/果実は旬の時期にジャムに。棚には10種類以上のジャムが並んでいます。
最初は数種類から始まったミルクジャムですが、今では34種類ものラインアップがあります。グミの実はさっぱりとした酸味とほんのり渋みがあって、紅茶は茶葉の香りがミルクの風味の中でも際立っていて…と、素材による違いを自身が楽しむうちにどんどん増えてしまったのだそう。とはいえ、種類は多くとも、どれも思いの込もったジャムばかり。友有子さんにとってはすべての種類が愛おしい存在なのだといいます。「イベントでお客さんを待っている時、よくフタを磨いているんです。ジャムがまるで子どものように感じられて」。旅立って、多くの人に味わってもらってね、と思いを込めて。そのジャムへの愛情こそが、ひとさじで幸せを感じる理由の一つなのかもしれません。
34種類のラインアップから、旬の味をお届け。プレーンのミルクジャム1種に加え、友有子さんが季節に合わせて選んだジャム2種をセットに。何が届くかはお楽しみです。
・ミルクジャム
すべての種類のベースとなっているミルクジャム。牛乳と生クリームの素材本来のおいしさがダイレクトに感じられます。
・ストロベリーミルクジャム
ミルクジャムの上にストロベリージャムを乗せて2層に。イチゴの豊かな香りと、果肉のつぶつぶ食感がたまりません。
・抹茶ミルクジャム
抹茶のほろ苦さが溶け込んだ、緑鮮やかなミルクジャム。濃厚ながらも、すっきりとした後味が印象的です。