■旅の先に辿り着いた、農家という生き方。
(文・仰木晴香/スロウ77号掲載)
和寒町の山の入り口にある明田農園を訪れたのは8月中旬。長く続いた雨が止み、突き抜けるような青空の日。そんな青空に向かって真っすぐに背を伸ばす、八列とうもろこし。普段食べているとうもろこしよりも細長い実が、目線の高さに2本ずつ付いている。ひげ根の色と実の付き加減を確認しながら、収穫はもう少し先だと教えてくれた。
札幌で生まれ育った和久さんは、20歳の頃から8年間、日本や世界のあちこちを旅して暮らした。妻のしず香さんと出会ったのも、その旅の途中。富士山の山小屋でアルバイト仲間として知り合い、そこから2人で旅を始めた。まずは四国まで向かい、いったん解散。和久さんが「ここ以外に考えられなかった」という理由から、2ヵ月後に北海道で合流した。住む場所を探しながら道内を巡っていたが、和寒町で旅は中断。「単純に、ここでお金がなくなっちゃって」と笑う和久さん。言葉を選ばずに表現するなら、行き当たりばったり。しかしこれが農家になるきっかけとなる。
仕事を探したところ、見つけたのは農家の手伝い。そして和久さんにとってはそれが一番性に合う仕事だった。「旅をしていたときも、お金を稼ぐといえばその地域の畑仕事で。普通の仕事ができなくて旅人になったのだけど、農家の仕事だけは続けられた。作物が待ってると思うと、朝起きるのも嫌じゃなかった」。半年間住み込みで農家アルバイトを続け、塩狩の森にある小屋へと住む場所を移した後も、和寒のさまざまな農家の畑仕事を手伝っていた。春には蕎麦農家、秋にはかぼちゃ農家。忙しい時期には何軒かの農家を回って。そんな生活を4年間続けるうちに、和久さんの中で段々と農業に対する思いが高まっていく。「働いていた農家で、ハウス1棟分のズッキーニの管理を任されて。種まきして収穫して、詰めて売りに出すまでひと通りやらせてもらった」。自信と経験、そして農作業を楽しむ気持ちが積み重なっていった。
2014年、転機は突然訪れる。「この土地が空くから、本気で農業をやるなら里に下りてこい」と、地域の人が家と農地を紹介してくれたのだ。トラクターやビニールハウスも譲ってくれると言う。毎年農家を手伝いながら得ていたのは、農作業の経験だけではなかった。地域の人たちとのつながりも強まっていたのだ。「かみさんと子どものおかげがほとんどだけど、周りの人が良くしてくれて。本当に世話になっているし、ありがたい」。こうして2人の旅は和寒で終わり、新たに農家としての道を歩き始めた。
■人気者ではない品種を育てる理由。旅での経験と目指したい生き方があった。
和久さんが八列とうもろこしの栽培を始めたきっかけは、旅の途中で訪れたメキシコでの体験だった。現地で食べたタコスが美味しかったこと。バスでの移動中にとうもろこし畑での収穫風景を見かけたこと。そんな異国での文化や景色が和久さんの興味をそそった。その思い出が忘れられず、塩狩に住んでいた頃に家庭菜園で八列とうもろこしを育て始めた。
自家採種で育てられる固定種であることも重要だった。今栽培している八列とうもろこしも、塩狩のときの種を引き継いでいる。この先、野菜の種が買えなくなったり、遺伝子組み換え技術がさらに進んだりするかもしれない。けれど自分で種を採って育てられるのなら、農家を営むことも、消費者に安全な野菜を届けることも、続けられるのではないか。まだ後戻りができるうちに、たとえ小さな力だとしても今の流れを変えたい。自分で種を採って育てる、そんなシンプルな生き方をしたい。
一方で固定種の栽培や販売における難しさもあるのが現状だ。とうもろこし以外にもきゅうりなどで固定種を育てているが、味にバラつきが出やすい上、現在主流になっている食べ慣れた品種のほうが消費者には求められる。「だから値段を抑えてでも、こういう野菜もあるよっていうのをなるべく伝えるようにしていて。本当に微力だけど、必死に抵抗してる」。製粉してコーンミールとして知り合いに使ってもらうと反応が良く、販売
を始めたのは7年前のこと。思うように収獲できない年もあったが、昨年からようやく安定して販売できるようになった。あまり一般的ではない食材だから、しず香さんが焼き菓子のレシピを考えるなど、食べ方の面でもまだまだ研究を進めている最中だ。
製粉はすべて手作業。収穫した八列とうもろこしの皮を剥いて10本ぐらいを束にし、納屋の二階で干す。乾いたらほぐして製粉機にかけ、袋詰めする。工場で作るようにすべてを完璧にできるわけではない。だからせめて「信用してくれる人、理解してくれる人」に届けられたら、というのが2人の願い。SNSで偶然見つけてくれた人が買ってくれたり、知り合いのパン屋が使ってくれたり。そんな広がり方が自分たちには合っている、と和久さんは言う。
各地を転々とする旅人から、ひとつの場所に根を下ろす農家へ。それは一見、正反対の生き方のように見える。けれど旅人時代のさまざまな経験が、和久さんの中で「大切にしたい」と思えることを作り上げてきた。それがたまたま辿り着いた和寒で、農家という生業にぴたりと当てはまった。自分のペースで、信念を持って、野菜と向き合う日々。「自宅から半径500メートル以内の引きこもり」だと言う生活が今の2人にとっていかに充実したものか、和久さんとしず香さんの晴れ晴れとした笑顔が物語っていた。
■セット内容紹介
明田農園の八列とうもろこしを殻ごと挽いたコーンミール。焼き菓子などの材料として使うと、プチプチとした食感と香ばしさ、ほんのりとした甘みが楽しめます。化学肥料や農薬を使わずに育てられているところもうれしいポイントです。
アメリカで日常的に食べられているコーンブレッド。とうもろこしの素朴なおいしさが味わえます。ほかにもビスケットスコーンなど、焼き菓子の材料に使う粉の一部をコーンミールに置き換えて。しず香さんのおすすめはクッキー。ザクザクとした食感になるそうです。
メキシコ料理の定番であるトルティーヤ。コーンミールに強力粉と水を加えて捏ね、平たく伸ばして焼くと出来上がり。野菜や肉などお好みの具材とソースをトッピングしてタコスにしたり、ちぎってサラダやスープに加えても。
■作り手 明田農園(和寒町)
明田農園では、八列とうもろこしのほかにもかぼちゃやトマト、ナスなども育てています。たくさんの品種を作っているのが地域の人には喜ばれるそう。
■商品詳細
賞味期限: 未開封で製造より1年
原材料:八列とうきび(トウモロコシ)
内容量:300g
セット内容:コーンミール×2
■レターパックプラス520円
1セットまで同一の送料でお届けします。
■お届けまでの時間目安
ご入金確認後5営業日で発送予定。
■熨斗
対応不可