(文・立田栞那/スロウ73号掲載)
現在20歳の加藤瑛瑠(える)さんが、ものづくりの道を志したきっかけは音楽でした。両親の影響でギターを始め、人前で歌うことが大好きに。家族や友人とバンドを組んで音楽を楽しむうちに、「ミュージシャンになりたい」という夢を抱くようになりました。「音楽をやる上で何かひとつ、自分の武器みたいなものがほしいなと思ったんです。
それで思い付いたのが、自分で作ったギターを使って歌うこと。そういう人ってあんまりいないんじゃないかなって」。そんな思いを抱いたのは、小学生の頃のこと。自らの気持ちにまっすぐに、加藤さんは北海道おといねっぷ美術工芸高等学校に進学します。高校で出会った仲間と共に、切磋琢磨した3年間の日々。卒業制作を控え、加藤さんはいよいよ本格的にギターづくりへ踏み出します。「ただギターが作れたら良いわけではなくて、作品として美術的なものが作りたかった。寄木細工に辿り着いたのは本当に偶然で、自分の中では奇跡的でした。でもピンと来るものがあったし、実際に試してみたら、すごく自分らしいなと思えて。これだ! っていう自信も持てたんです」。10代で見つけた「自分の色」と、それを得られた経験は、加藤さんのものづくりの道を明るく照らしたことでしょう。
写真上/寄木細工に使う木材はいずれも無着色。細い木材を束ねるようにして模様を作っています。
高校3年生の夏、ギターづくりの傍ら、加藤さんは古民家の改装を進めていました。「自分のやりたいことがはっきりしていたから」、高校卒業後はそのまま独立しようと決めていてそのための拠点が必要だったのです。中学の同級生の親からの紹介で巡り合ったのが、現在工房兼ギャラリーにしている築64年の古民家。ひと目見て「ここしかない」と感じた加藤さんは、クラウドファンディングや動画制作を通して資金を集め、古民家改装を始めました。
写真上/アクセサリーや家具が並ぶギャラリー。家具はオーダー製作がメイン。
心強い助っ人となってくれたのが、元タイル張り職人をしていた祖父。毎日のようにお弁当を作ってくれる祖母と、技術を惜しみなく教えてくれる祖父。小学校6年生の頃、家族で暮らす家をみんなで改装した経験もあり、家族の存在が支えになったと話します。2年間の改装期間を経て完成した工房兼ギャラリーは、加藤さんにとって「ひとつの作品」。床にも、壁にも、そこかしこに祖父との思い出が詰まっています。
「そなも」とは元々、高校時代に一緒に活動していた同級生3人のグループ名でした。「高校生の頃、授業じゃ足りないくらい『もっと作りたい』という気持ちがあって。そなもの3人は、同じ思いを持っていた仲間。僕が寄木、ほかの2人が家具と彫刻をやっていて、作っているものが違うのもバランスが良くて。ずっと一緒にものづくりをしてきて、『いつか自分たちの製作場所がほしいね』と話していました」。一度抱いた思いを淡い夢のまま終わらせないのが、加藤さんの強み。2022年5月、専門学校で家具づくりを学んでいた金丸虎次朗さんが加わり、工房そなもは2人の工房としてスタートを切りました。ちなみに、もう一人のメンバーは馬場さくらさん。現在は多摩美術大学で彫刻を学んでいるそうですが、ギャラリーには馬場さんの作品も並んでいます。
これからについて尋ねてみると、「やりたいこと、たくさんあるんです!」と屈託のない笑顔を浮かべる加藤さん。「いちばん大きな夢は、隣の山に民泊をつくること。小屋を建てて、自分たちの家具を入れて、ショールームのようにできたら。現実的なところでは、冬に向けて工房に断熱材を入れないと」。自らの手で創り上げたこの場所を拠点に、きっとたくさんの夢を形にしていくのでしょう。鷹栖町の古民家で、そう確信できるほどの強い行動力を持った20歳の職人に出会いました。