■表情豊かな木彫り熊。北海道の工芸品を暮らしの側に。
(文・立田栞那/スロウ71号掲載)
「木工のまち」旭川から、何とも愛らしい木彫りの熊カップが届きました。木に登ってこちらを見つめている熊、のんびりお昼寝中の熊、じっと考えごとをしているような熊。個性豊かな表情とポーズ、「取っ手の部分が熊」というユニークさに、すっかり心奪われてしまいました。
木彫り熊といえば、昭和初期から中期にかけて、北海道の土産品として人気を集めた工芸品の一つ。道内の旅館や民家の玄関先で、鮭をくわえた木彫り熊を見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。時代の流れと共に、土産品としての人気は下火になっていた木彫り熊ですが、ここ数年、若い世代を中心に人気が再燃しているのです。取材先で訪れたセレクトショップやカフェで目にする機会も随分と増えました。
(写真上/一つの木材から木彫り熊を彫り出していきます)
人気を集めているのは、黒い毛並みがリアルに表現されたものよりは、全体的に丸みを帯びていたり、表情がちょっぴりデフォルメされたような「愛らしい」熊たち。インテリアに馴染むような、手のひらサイズの小ぶりなものが好まれているようです。「アパートに住む人や、以前と比べてコンパクトな造りの家が増えたでしょう。昭和の頃のように、大きな木彫り熊を玄関先に飾る人は少なくなりましたよね」とは、木彫職人であり、木彫り熊カップの生みの親である中川貞司さん。「生活の中で気軽に使ってもらえる作品が作れないだろうか」という思いから誕生したのが、この木彫り熊カップでした。
■愛らしさと、高い技術と。実用性にも優れたカップ。
中川さんが手がけたカップから感じるのは、木彫りの熊の愛らしさと、職人としての手仕事。熊の目や鼻、口などパーツの一つひとつの彫りの細やかさからは、素人目にも高い技術を感じますし、カップとしての完成度も高いのです。
たとえば、一見「持ちにくいのでは? 」と感じてしまうかもしれない取っ手。確かに凹凸があるのですが、いざ持ってみると手にフィットし、違和感なく使うことができます。指の間にすっぽり収まった熊の顔に、つい頬が緩むなんてことも。
この取っ手は、本体を別々に作り、最後に接着するのではなく、一つの木材からカップ全体を削り出しています。取っ手とカップ本体がしっかり繋がっているため、乱暴に扱わない限り、使っているうちに取っ手だけがポロリと外れてしまう心配はありません。飲み口の部分は薄く削られていて、飲み物が飲みやすい仕様になっているのもうれしいところです。
材料に使われている木材は、イチイ。中川さんによると、「正しく使えば、長く使ってもらえる丈夫な材」です。素朴で温かみのある色味と質感が食卓にもすっと馴染んでくれそうですし、キャンプやピクニックなど野外の雰囲気にもぴったりです。陶器のように落として割ってしまう心配が少ないのも安心ですね。使用の際、ホットコーヒーや温かいお茶は入れても問題ありませんが、熱湯をかけたり、長時間水に浸けて置くのは避けましょう。割れてしまう場合があります。電子レンジや食器洗浄機の使用はできませんのでご注意ください。
■木彫りの文化をもう一度。中川さんの職人人生。
自宅横にある工場の2階が中川さんの作業部屋。木彫に使う道具やこれまで手がけてきた作品が所狭しと並んでいます。元々は、仏像彫刻など「美術品に近い」作品を数多く手がけていた中川さんですが、最近は若い人たちの意見も取り入れながら、時代に合わせた作品も制作するように。「このカップのように、幅広い世代の人に使ってもらえる作品を作ることで、北海道の木彫り文化が広まっていけばうれしい」と話します。
作業部屋の真ん中に置かれた座布団に座り、中川さんは全身を使って、力強く木材を彫っていきます。午後の光が中川さんの手元をまっすぐに照らし、ザッザッと木が削られていく音が響きます。刃物を持つ手に、一切の迷いはありません。その作業に圧倒されているうちに、荒削りの木材から熊の表情が見えてきました。
「どんなものだって彫れるよ。目をつぶったって、大丈夫なくらい」。現在79歳の中川さん。物心ついた頃から木彫を始め、人生の大半を木彫職人として過ごしてきました。「年を重ねるうちに、思い通りに、好きなように彫れるようになってきました」。その言葉に滲むのは、職人としての誇りと、一つのことに向き合ってきた年月の重み。ノミを握る手は、ものづくりを続けてきた人の手そのものでした。
木彫り熊に再び注目が集まる一方、木彫職人の数は減少し続けていると言います。「旭川にも、300人位の職人がいた時代もありました。でも今じゃ、自分が知る限り10人くらいしかいないかな」。旭川の産業発展に大きく関わってきた木彫文化ですが、今後さらに希少な存在になっていくのかもしれません。
それでも今、この地で生まれている確かな手仕事を、私たちなりの方法で伝えていきたい。そんな思いから、中川さんに貴重な通信販売の機会をいただきました。タイプは全部で3種類。それぞれ1個限定での販売です。今回のために、中川さんが一点一点、手がけてくれたものです。
モチーフとしての愛らしさと、北海道に受け継がれてきた手仕事の文化。その2つを兼ね備えた木彫り熊カップを通して職人の思いに触れてもらえたなら、それほどうれしいことはありません。中川さんのような職人の存在に思いを馳せてもらえたなら、それほどうれしいことはありません。
■作り手 中川貞司さん(旭川市)
士別市出身。1965年に妻の地元である旭川で、自身の木彫り作品を扱う店「木彫 ナカガワ」を開業しました。木彫のほか、氷彫刻の全国大会で優勝した経験も。
■商品紹介
このページは、木彫り熊カップ「木登り」の購入ページです。木に登ってこちらを見つめている好奇心旺盛な熊。とってもチャーミングな表情です。カップはすべて一点もの。期間限定での発売です。熊の表情とポーズはもちろん、カップ本体のサイズ感もそれぞれ少しずつ異なります。
※写真はイメージです。手作りのため個体差があります。
商品サイズ:カップ 口径約8cm×高さ約8cm、台座 縦約8cm×横約10.5cm
商品素材: 樹種/エンジュ 塗装/ウレタン塗装
備考:
※各2個限定です。 ※2022年9月12日10:00より販売いたします。
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