2021 Mar
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歌才ブナ林の原生林-3

癒しを求めて、学びを求めて、人は森に誘われる。

「森の中にある、大きな穴を探しましょう」。ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべた齋藤さんに言われて、足元や周囲をきょろきょろと見回しながら歩く。穴というから地面にあるのかと思ったのだが、そうではなかった。少し進んだ先で齋藤さんが指さすのは、頭の上。見上げてみると、ほとんどがブナの葉に覆われた空に、ぽっかりと「穴」が空いていた。「15年ほど前に木が倒れて空いた穴です」と齋藤さん。その穴を埋めようと周囲の木は枝葉を広げ、一方で、倒れた木の下に生えている若く細い木は、今がチャンスとぐんぐん生長しているところだという。太陽の光の恩恵を、誰が手にできるか。懸命に生きようとする木々の生命力が感じられる光景だ。「決着がつくのは50年くらいしてからですね」とのことだった。

ふいに、森の中を少し強い風が吹き抜けていった。歩いて体温が上がった身体には心地よい冷たさだ。すると、間を置かずにパタタタ、パチリパチリと弾むような音が辺りから聞こえてきた。シードレイン、種の雨だ。風に吹かれたブナの種が落ちて、下に生えている笹などにぶつかって立てる音。まるで、ブナの木と風の奏でる音楽。その音色にしばし黙って耳を傾けた。

時間にして約2時間半。あっという間に感じられた原生林散策も終わりに近づき、名残惜しく思いながら歌才ブナ林を後にする。ツアーの宿泊先である歌才自然の家で昼食をとり、ツアーの日程は終了となる。満足げな表情で帰路に着く参加者たちを見送って、向かった先は黒松内町ブナセンターだ。齋藤さんに、もっとじっくり話を聞いてみたいと思ってのことだった。

2013年で20周年を迎えたブナセンターに齋藤さんがやって来たのは2001年のこと。宮城県で生まれ、父親の転勤で東北の様々な土地を巡りながら育ったという齋藤さん。子どものころから、自宅近くの森に秘密基地を作るなどして遊んでいたという。「小学生のころは授業中に教科書の陰に隠れて、飼っていたカマキリにハチを食べさせてました(笑)」。山好きだった父親の影響もあり、引っ越すたびにその土地の山に一緒に登っていたという。「今考えるとそのときの経験が活きているのかもしれませんね」。―つづくー(「スロウ vol.392014年春号掲載 取材・文/家入明日美)

 

歌才ブナ林の原生林-1
歌才ブナ林の原生林-2
■歌才ブナ林の原生林-3
歌才ブナ林の原生林-4

 

話の主は…

黒松内町ブナセンター

黒松内町字黒松内512-1

TEL.0136-72-4411

開館時間/9301700(木曜のみ2100まで)

休 館 日/月・火曜(祝日、夏休み期間は開館)

http://www.host.or.jp/user/bunacent

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.39 early summer 2014より

https://www.n-slow.com/books/books-150

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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