2021 Mar
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歌才ブナ林の原生林-1

癒しを求めて、学びを求めて、人は森に誘われる。

「一歩階段を上るごとに、5000年の歴史を遡っているんです」。その言葉に、静かな感動が胸の内に広がるのを止められなかった。

黒松内町のほぼ中央、今なお手つかずの自然が残る歌才(うたさい)ブナ林。黒松内町はブナ北限の町でもあり、26年も前からブナの原生林を歩くツアーが行われている。

2013年10月下旬。12日で行われるツアーの2日目、前日から参加していた参加者たちに合流する。「選んだように良い天気ですね」と笑って迎えてくれたのは黒松内町ブナセンターの学芸員である齋藤均さんだ。

北海道の大自然、という謳い文句があるが、実のところ、「北海道に人の手が入っていないという意味での自然はほとんどないんですよね」と齋藤さん。明治期の開拓によって、50年~60年ほどの間にほとんどの森が伐り拓かれてしまったからだ。

歌才ブナ林は、開拓を逃れてわずかに残った原生林のひとつで、昭和3年(1928年)に天然記念物に指定されている。その数年前、天然記念物調査員としてこの地を訪れた林学博士、新島善直さんがこんな言葉を残している。「周囲は開墾し尽されている中で、このようなブナの原生林が残っているのは奇跡のようだ」。天然記念物に指定された後も、太平洋戦争などで戦闘機のプロペラにするために伐採しようという動きがあったそうだが、何とかその危機を免れて今日に至っている。

齋藤さんの話によれば、この辺りは地形的にも特徴のある場所なのだという。およそ80万年前に海の底が隆起した大地を川が削ってできた地形で、近くを流れている朱太(しゅぶと)川から階段状に断丘がある。川の流れによって一段分が削れるのに、およそ10万年かかるといわれています」。

歌才ブナ林の入り口もその断丘のひとつなのだそうだ。入口の階段が約20歩分ということから、10万年を20歩で割って、1歩あたり5000年という計算になるわけだ。一歩一歩踏みしめるように階段を上る。46億年の地球の歴史もこの一歩の時間の積み重ねによって築かれてきたのだろうか。ふと考えてみたものの、あまりにも壮大で実感に乏しかった。

歌才ブナ林は、入口から800メートルほどの間は私有地や町有地になっている。50年ほど前までは、畑などとして利用されていたそうだ。この辺りは人の手によってカラマツなどが植えられた場所で、時の流れと共に自然にブナやミズナラ、イタヤカエデなどが混じるようになった。ここは今、少しずつ自然に還ろうとしている場所なのだそうだ。北海道では貴重な存在になりつつある湿地林もあり、夏にはホタルが見られるという。原生林だけではなくこうした環境を残していくことも大切なのだと、改めて思う。―つづくー(「スロウ vol.392014年春号掲載 取材・文/家入明日美)

■歌才ブナ林の原生林-1
歌才ブナ林の原生林-2
歌才ブナ林の原生林-3
歌才ブナ林の原生林-4

話の主は…

黒松内町ブナセンター

黒松内町字黒松内512-1

TEL.0136-72-4411

開館時間/9301700(木曜のみ2100まで)

休 館 日/月・火曜(祝日、夏休み期間は開館)

http://www.host.or.jp/user/bunacent

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.39 early summer 2014より

https://www.n-slow.com/books/books-150

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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