恵庭幼稚園×北清建設-3
2012年、恵庭幼稚園に薪ストーブが設置された。安全性を十分に検討した上での導入だったため、保護者の理解も得られたそうだ。薪については最初の年だけは購入したものの、翌年以降は北清建設が恵庭市内に所有する「北清の森」から、調達できるようになった。
「北清の森」は、約3.2ヘクタールの自然林。クライアントに効率的かつ、より自然に添った形で薪を提供することを目的として、2011年に購入した。森の中には小川が流れており、イベントを催すにも打ってつけ。火持ちが良く、「薪として一等」と人気の高いナラの木が優占していることもあり、同じ恵庭市内で薪づくりを通した森の循環を実現できるという、これ以上ない好条件が揃っていた。
恵庭幼稚園と北清建設の薪ストーブを軸にした展開は、「北清の森」の存在によって飛躍的に広がっていくこととなる。相澤さんは井内さんに「この山、好きに使ってくれていいよ」と、実に気軽に持ちかけた。薪ストーブの導入について井内さんが相澤さんにいろいろ相談していた頃だろうか。すっかり意気投合した人の話題は薪ストーブに留まらず、大いに盛り上がったに違いない。
かねてから自然の中で子どもたちを育てたいと考えていた井内さんにとっては、渡りに船。年かけて自力で林床を整備し、年かけて保護者に説明を繰り返した。最初は反対していた保護者達も、いざ活動が始まると木製の遊具を手づくりするなどして協力してくれたそうだ。努力の甲斐あって、2015年には通年での森の利用が実現した。
「森には失敗がない。あるのは工夫と創造だけなんです」。そう語る、井内さんの優しい眼差しが印象深い。森では大人は見守り役に徹する。子どもたちは自分の意志で、何をするかを決めて行動するのだ。何かを「やった」ときよりも「やめた」ときにこそ褒めるというのも興味深い。「今の自分にはまだできない。そう判断できることは、とても大切な力」。他の誰でもない「自分自身」を見つめることで、自分がここでどうやって「生きていくか」を考え、工夫を凝らすようになっていくということだろう。そんな子どもは、ケガもしないのだという。
「うちの(幼稚園の)子たちは、自分たちを温めてくれる薪がどこからきているかを知っています」。春に森の木を伐り出し、夏に薪づくりをする大人たちの姿を見学し、できた薪は自分たちの手で少しずつ園に持ち帰る。拾ったどんぐりを園で育て、卒園のときに森に植樹する取り組みも行われている。年もすれば再び薪として使うことができるようになるそうだ。森からいただいたものを、感謝を込めて使い、森へと還す。それは園児たちが親になる頃に再び薪となって、その子どもたちを温めてくれる。そんな循環がここで生まれつつあることに、感動を覚えずにはいられない。ーつづくー(取材・文/家入明日美 撮影/菅原正嗣)
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