宮本夫妻の田舎暮らし-3
夏になれば畑の作業が始まる。育てているのはトマト、キュウリ、枝豆、小豆など20種類ほどの野菜。「たい肥を入れてトラクターで土を起こしてから苗を植えるまでが僕の仕事で、世話をして収穫して料理するのが家内の仕事。だってホラ、僕は薪割りもあるし、秋になったらキノコ狩りで忙しいもの」。弘夫さんはそう言って、茶目っ気たっぷりに笑みを浮かべる。
豊子さんの手料理は、とてもおいしい。ひと口ごとに食物のエネルギーを丸ごといただいているような気持ちになれる。体が喜んでいるのが伝わってくるのだ。宮本家には調理用の薪ストーブがあって、冬の間はもっぱらストーブの上で調理が行われる。夏はプロパンガスを使うそうだ。
できる限り添加物は使わないし、電子レンジも使わない。これは昔からの豊子さんのスタイルだという。「電子レンジはポタンひとつで何でもお手軽にできちゃうでしょう。子どもたちには、お手軽な人間になってほしくないなぁって思ったのよ」。
便利なのは、ありがたいことだ。けれど便利すぎる道具に慣れきってしまうと、大切なものが零れ落ちてしまうのかもしれない。たとえば、命をいただいていることへの感謝の気持ち。食べるという行為がどんどん簡略化されていく中で、「生きる」ことが疎かになってはいないだろうか。そんな風に自身に問いかける時間を持つことさえ忘れていたことに、気づかされる。
宮本夫妻が喜茂別に移住して、13年が経つ。移住当初は地域の人たちに受け入れてもらえるかが一番心配だったと話す2人。町内会の行事に積極的に参加するなどして、少しずつ交流を深めていったそうだ。
2010年には町の地域おこし協力隊のサポート役を任され、隊員と地域住民の交流の場として自宅でお茶会を開催。協力隊の活動が終了する際、「お茶会がなくなるのは寂しい」という地元民の声が挙がり、お茶会は宮本夫妻が引き継ぐことになった。それ以来、今でも月に一度、住民が集まって豊子さんのお手製の昼ごはんを食べながらおしゃべりを楽しむ「森のお茶会」が開かれている。
2016年には「道草森保全の会」を結成し、教育・研修のフィールドとしての活用を新しくスタートさせた。森を健康に保つための間伐、草刈りによる歩道整備のほか、ホタルなどの生きもの観察会の実施や生態について学ぶ場も作っている。
「何かをやると、そこに人が集まってくるでしょ。その人たちといろいろな話ができるのが楽しいし、教えてもらえることもたくさんある」とは、弘夫さんの言葉だ。
移住する前に思い描いていた田舎暮らしは、もっとのんびりとしたものだった。ところが蓋を開けてみれば「田舎でのんびりなんて、あれは嘘ね(豊子さん)」。「これがけっこう忙しい(弘夫さん)」。そうして2人でまたアッハッハと笑うのだ。見ているこちらが幸せになるような表情を浮かべて。
日々の暮らしを丁寧に紡ぐことで得られた宮本夫妻の日常は忙しくも楽しく、生きる歓びに満ちあふれている。ーおしまいー(取材・文/家入明日美)
■宮本夫妻の田舎暮らし-1
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