2021 Jan
22

神田日勝記念美術館-3

なぜ美術館をみて感動するのか?

作品鑑賞とはどういうことか? 僕はときどきそのようなことを考える。

鑑賞するのに難しい理論、理屈は不要。確かにそう思うのだが、自分がなぜいいと思ったのか、その理由が何なのか知りたいという欲求もあるはずだ。川岸さんも僕と同じようなことを考えていた。

「作品を見て最初はうっとりしたり、感動を覚える。いわゆる芸術体験をすることになると思います。その後には『なぜ?』という疑問が湧いてきます。なぜ心に響いたのか。作品と自分とのつながりは何か。自分の過去の体験や今置かれている状況とどのように関係しているのか。そうした疑問に対して理屈をつけて、自分が納得したいのだと思います」。

こうした分析的な鑑賞の仕方をするからかもしれないが、川岸さんは決して作家を人物崇拝することはないという。作家の生き様に惹かれることはあっても、あくまでも重要なのは作品のほう。それだけ純粋に作品を鑑賞したいということに他ならない。

これは、美術、文学、写真、映画…あらゆるジャンルに当てはまることだと思う。まずは「感動」が最初にやってくる。理性を使った分析は芸術体験の後ということになる。分析を通じて、一部は解明され、言葉に置き換えられるかもしれない。けれども、理解不能な部分、理屈を超えた驚きといったものが残される。

美術館へ足を運び作品を鑑賞する愉しみ。それは芸術体験と分析だけでは終わらず、その後長く自分の頭の中に留まり続ける「もやもやとした謎」にあるのではなかろうか。

川岸さんに最も気になる作品を挙げてもらったら、「馬(絶筆・未完)」と「死馬」(1965年、北海道立近代美術館蔵)を挙げてくれた。前者は日勝を象徴するあまりに有名な作品。後者は川岸さんが熱心に研究しているという作品だ。下絵がデッサン帳に26ページにわたって描かれているとのこと。研究意欲をかき立てる作品と言えそうだ。

神田日勝以外の作家では、ルネ・マグリットの「光の帝国」と長谷川等伯の「松林図屏風」が挙げられた。「光の帝国」はシュルレアリスムの作品のひとつ。川岸さんはずっと見たいと思い、ベルギーを訪ね、ようやく見ることができたという。一方、「松林図屏風」を描いた長谷川等伯は、桃山時代、石川県七尾出身の画家。同郷の川岸さんには「この世界、知っている」と感じるそうだ。「海風の湿気が脳内で再生される」と言い、折に触れ見たくなる作品なのだという。

「芸術作品は片手間や趣味から生まれたものではない」と川岸さんは主張する。

「やむにやまれぬ事情や社会の要請があって画家は絵を描く。絵がないと、この人は生きられなかったのではないか?神田日勝の作品を見るとそんな思いを強くしますね」。

神田日勝の絶筆「馬」を見て感動する人が多いのは、「生きるとはどういうことか」作品鑑賞者が真正面から向き合うことになるからではなかろうか。それが見る人の琴線に触れる。川岸さんの言葉を借りれば、「この絵は自分のために今ここに存在している、と思わせるくらい作品に力がある」。「馬」に限らず、日勝の作品からはそんな生命力のようなものが伝わってくる。

川岸さんは学芸員としての理性的な視点から、次のようなことも語っていた。

「神田日勝の没後からもうすぐ半世紀。時間の経過と共に、作家の血脈、地脈、人脈はそげ落ちていくものですが、今はまだ余熱のようなものが残っています。__もともと住民運動でできた美術館ですし、遺族の協力も大きい。画家として評価が定まるのはここからですね。神田日勝という画家がもっと注目を集めるよう活動していきたいと思います」。ーつづくー(取材・文・撮影/高原 淳)

神田日勝記念美術館-1
神田日勝記念美術館-2
■神田日勝記念美術館-3
神田日勝記念美術館-4

話の主は…

神田日勝記念美術館

鹿追町東町3丁目2 

TEL.0156-66-1555

開館時間 /10001700

休館日/月曜

http://kandanissho.com

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.55 early summer 2018より

http://www.n-slow.com/books/books-9266

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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