佐藤農場×坂東農場-2
ところで、すっかり2人のトレードマークとなっている白と黄色のキッチンカーを実際に購入したのは2013年。中古のものに、床などをすべて張り替えるなどして自分たちで手を加え、保健所の許可を取った。ここから2人の活動の幅は、どんどん広がっていくこととなる。
翌年5月には、佐藤農場で「菜の花カフェ」を開き、一面の黄色い花を咲かせた菜の花の中でフライドポテトを振る舞った。これには、子どもも大人も大喜びだったそうだ。「子どもたちに、農家の姿を見せたくて」と佐藤さん。これも「農家だから」できることだ。
これ以降、坂東農場で収穫作業を行っている横でフライドポテトを販売したり、来た人に収穫してもらったイモをその場で揚げたりといったことも実施。イベントによっては、ジャンケンに勝ったらお替わり無料というのも面白い。「商品としての価値は落とさない。けれど、子どもたちが握りしめて来る500円玉の重みがわかったし、喜んでくれるのがうれしいから」。自分たちが何げなく口にしている食べ物が、どこでどんな風に、誰の手によって作られたものなのか。訪れた人は、理屈ではなく、気持ちの深い部分で理解するだろう。「食卓と、畑をつなぐ」。菜の花フライドポテトは、その重要なキーアイテムとなっている。
「出会った人と、手の届く範囲で楽しいことをやる」。そこをひとつの基準にしているのだと、2人は話す。ビジネスベースでは考えていない。「最初からビジネスとして考えると、妥協しちゃいそうで。そうじゃないからこそ、未来のことを考えながらいろいろと挑戦できる気がしています」。ビジネスにするには、今はまだ社会の価値観が追いついていない。けれどいずれ、暮らしと農がもっと近くにある未来が訪れたなら、さらに楽しく深みのある価値を、農業に付け加えることができるかもしれない。
2016年8月。音更町では地元の商工会が開くイベントが行われた。子どもたちのはしゃぐ声で、ひときわ賑わう一角。キッチンカーの周りに集まった子どもたちの笑顔が、すべての答えのように思える。ーおしまいー(取材・文/家入明日美 撮影/菅原正嗣)
■佐藤農場×坂東農場-1
■佐藤農場×坂東農場-2