MEON農苑-3
「変わらずに今もイギリスは好きなんだけど、ここに通ううちにね、なんか違うなって思うようになってきたんだね。水があって、空気がきれいで、小鳥が来て、風があって。それだけでいいんじゃないかって。ここの建物はイギリスやフランスのようにはしないでいこう。柱は無垢のままで、北海道の丸太を使ってみようって。庭にバラを植えるのも止めたの。余計なことしなくていいなって思ったんだよね」。
ヨーロッパの文化を借り受けてくるだけの時代はもう終わりなのではないか。この土地に出会って、草木や風の声を聞くうちに、近さんはそう悟ったのだという。もちろん、この場所から発信したいことは依然変わらない。かつてヨーロッパで目にしたような心豊かな暮らし。そのためのヒントとなるような衣食住全体の提案をしていく。
心豊かな暮らしとは、インテリア、住まい、食べ物、庭、自然。それら全てが揃った上に成り立つものだろう。どれか一つだけでは成り立たないし、どれかが欠けても成り立たない。
私たちはこれまで、効率ばかりを優先しすぎてきたのではないだろうか、と近さんは言う。使い捨ての物が増え、物は溢れるばかり。目先の効率に囚われて、いつの間にか物事の全体を見失っていたのではないだろうか。近さんがこの土地で見たものは、私たちが失いつつあったバランスそのものだった。
樹木が生え、山野草が繁る。春と共に芽吹き、夏にはいっぱいに枝を広げ、秋は葉を枯らし、芽を堅くして冬を耐え忍ぶ。何十年もこの地に根を下ろし続けてきたアカエゾマツは悠々と立ち、そして千歳川は今も昔も変わらずに淡々と流れ続けている。そこには、既に出来上がった一つの世界があった。
MEON農苑は「百人百様、感じたままに楽しんでもらいたい。ここを訪れて、イギリスが好きな人も北欧が好きな人も日本が好きな人も、それぞれに感じてもらえればいい」と、近さん。「ずっとね、見守っていてください。どういうふうになっていくのかをね。僕自身、見当もつかないんだけど、でもきっとすごく素敵になると思うよ」。
そう言いながらMEON農苑を見渡す近さんの表情は、千歳川の流れを見つめていたその時と、まるで同じことにふと気がついた。ーおしまいー(「スロウ vol.29」2011年秋号掲載)