MEON農苑-1
川の近くが良かったのだそうだ。それが絶対条件だった。陸と海をつなぎ、その間にある全ての生物と関わり合いながら悠然と流れる川。堂々といつも変わらない様子でそこに在る川。
MEON農苑のすぐ横には千歳川が流れている。支笏湖から流れ出て、やがては石狩川へと合流する河川だ。千歳川に関わりを持つために、MEON農苑はここに造られた。農苑の植物たちは、その流れと呼吸を合わせるように生きている。
農苑の主である近東志勝さんが札幌近郊の方々を探し回り、やっと見つけた場所がここだった。護岸工事の為されていない、できるだけ自然な状態のままの川のほとり。樹木に囲まれ、緑が残されている土地。この場所に辿り着いたのは、今から7年前のことになる。
1978年から2004年まで、近さんは岩見沢で「私の部屋」という店を営んでいた。主にイギリスやフランスのアンティーク家具や雑貨を扱う店である。金具の一つにもこだわり抜かれた家具と、ホーローの器や籠や瓶など数え切れないほどの雑貨。庭にはイングリッシュローズが咲き誇り、そうした空間を愛して止まないファンが全道各地に大勢いたという。
妻の千佳子さんと共に、ヨーロッパの田舎の暮らしに憧れたのが20、30代の頃。当時は日本にほとんど情報が入ってきておらず、例えばハーブという言葉さえも浸透していなかったと聞く。見るもの、聞くことの全てが刺激的だったと言う。「あの頃の僕らはね、とにかくヨーロッパにものすごく憧れがあったの」。親から子へ、何代にも渡って引き継がれ大切に使われる生活道具。風土に適した植物の庭。そこにあったのは、うまく自然に寄り添った暮らしだった。何度か足を運ぶうちに、「ヨーロッパの片田舎の暮らし」に見る豊かさが、二人の目指すところとして定まった。
1992年に札幌の4丁目プラザビル内に開いたロングパリッシュという店(こちらは千佳子さんが店主)もまた、「私の部屋」と同じようにヨーロッパさながらの衣食住を提案する場として位置づけられた。合わせて2箇所を拠点にして、自分たちの考える豊かな暮らしを発信し続けてきたのである。ーつづくー(「スロウ vol.29」2011年秋号掲載)