2018 Dec
19

あすみちゃん-4

ある満月と、あすみちゃんの畑

作業台の上に並んでいるのは、椿油、ひまわり油、なたね油、米油。そしてはぜろうと、本当にシンプルな植物由来のエッセンシャルオイル。身近なものが1番力強い、というのがあすみちゃんの考えだから、使う油はほとんどが北海道で作られたもの。香りを入れるためのエッセンシャルオイルも、道北や空知管内で作られたものがいくつかあった。

小さな鍋を火にかけて、固形のはぜろうを溶かしていく。溶けて透明になったら、お気に入りの木のスプーンでぐるぐるとかき混ぜながら、2、3種類の油をブレンド。いつもつくる定番レシピは4種類ほどあるけれど、香りの配合は正確に分量を量ったりしない。手の端にチョンと付けて、香りを確かめる。エッセンシャルオイルを数滴加えて、また手の端にチョン。「うーん」とか、「いいかな~」とか小さな声で呟きながら、理想の香りと硬さに仕上げていく。しっくりきたら、そこでおしまい。おたまで器用に瓶に流し込んでいき、あとは並べて冷まして固まるのを待つ。

はぜろうも油も、エッセンシャルオイルも、全部が植物由来。満月の日にはそれぞれの素材のパワーがもっとも高まっている。だからあすみちゃんは、満月の日にはぜろうクリームをつくる。「不思議なんだけどね。満月だとハーブティーの色が濃く鮮やかになるの」。自然界は、私たちが思っている以上に太陽や月のエネルギーの影響を受けているのかもしれない。「月が出てきたから、外に行ってみよう」。言われるがままに畑に出てみると、遠いのか近いのか、斜め上の空に真ん丸の月が浮かんでいた。「ふ~」。思わず大きく息を吐いた。あすみちゃんの話を1日いっぱい聞いた後だからだろうか。まっすぐに届いて全身を照らす月明かりが、身体の中を隅々まで満たして浄化してくれるような気持ちになった。

あすみちゃんは、自分の故郷、自分の仕事、自分の生き方に真正面から向き合って、大切にすべきものをきちんと大切にして、日々暮らしている。「(ここに帰ってきて)少しずつ確実に生きやすくなっている実感があるよ」。「アッ、忘れ物。そうそう、これも入れようと思っていたんだった」。摘み忘れた葉っぱを採りに、青空の広がる畑の中へパッと駆け出すあすみちゃんの楽しそうな足取りが、やけに印象に残っている。生きやすさは、誰かに与えてもらえるものではない。

「足元をみろ」。

目をそらさないで見つめ続けた先に見えてきたものがきっと、本当に大切で、守りたくて、守るべきもの。―おしまいー(取材・文/片山静香 撮影/菅原正嗣)

あすみちゃん-1
あすみちゃん-2
あすみちゃん-3
■あすみちゃん-4

 

話の主は…

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.49 Autumn 2016より

https://www.n-slow.com/books/books-5521

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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