2021 Mar
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弥生の里農園-2

元気な子どもを育む食べものを

今では、吉岡さんには人生の多くの時間を共にできる伴侶がいる。でも、ここに至るまでの長い時間を、ひとりで子どもを育てながら、自ら働くことで生き抜いてきた。とは言っても、吉岡さんの生き方がいわゆる「スーパーウーマン」のようだったと言いたい訳ではない。むしろ、いろんなことをゆっくりと噛みしめるように味わい、迷い、悩みながら、やること、方向性を定めてきたというほうがしっくりくるだろう。

3年ほど前から、吉岡さんは「農業をやりたいな」と考えるようになっていた。農業へと意識が向かったのは、身体や心の在りようは「食べもの」と切っても切り離せない関係にあると確信するようになっていたからだ。母親でもある吉岡さんだが、それ以前、農業をやりたいとは思うものの、まずは自分自身の身体が農作業に耐えられるものかどうか、まったく自信がなかったという。

その頃までの吉岡さんはアレルギー体質で病弱。アトピー性皮膚炎に悩み、恒常的に目眩に襲われていた。年中風邪をひいているような状態で、病院に行けば自律神経失調症や鬱病と診断される。しかも、出された薬を飲んでも改善する訳ではなく、突然、バタンッと倒れてしまうことも頻発していたらしい。

勉強を重ねることで、鬱の原因の9割は「食」にあるとわかり、食べるものを変えることで少しずつ、それまでの症状が改善し始める。ビタミンB1や鉄分などの栄養をきちんと摂りなさいとアドバイスされては、素直に実行することで、少しずつ改善の兆しは見えていた。とは言うものの、天気の悪い日が続けば、身体の具合も悪くなるといった調子がその後もずっと続いていたという。

自分のこともさることながら、ひとり息子の体調も吉岡さん同様、長い間、芳しくなかった。自分自身の体調も思わしくないというのに、大事な息子にまで下されたアレルギー症状の診断。吉岡さんは悩みながらも、調べ、勉強を重ねる中で、ひとつの結論に至る。「ファストフード的なものを食べるのをやめてみよう」。アレルギー症状と言っても、そんなに重大なことじゃない。「その辺に普通に売られているものを食べ続けることで出る症状のひとつに過ぎない」ことに気づいた吉岡さんは、料理をなるべく、「手作り」することにする。同時に、子どもと一緒に体操や運動をし、直に土を踏んだりすることで、ふたりの症状は少しずつ改善に向かっていく。今では、吉岡さんのひとり息子は高校生になり、寮住まいしながら、本州の高校に通っている。

「食を変えることで、夢を叶えられる子どもが増えるかもしれない」。今では、吉岡さんの夢は家族の範疇を超え、外の世界へと広がりを持つようになっている。ここ10年ほどで、鬱やアレルギーなどと診断される子どもが増え続けているという現状。難病にかかり、障がい者手帳を持って大学に入る子どもも増えているそうだ。だからこそ、「食」の果たす役割は大きくなっていると、吉岡さんは考えている。「他のお母さんも、(私同様)苦労している」。そんなお母さんたちの役に立てるかもしれないと、冬の間は「子育てセミナーなどでしゃべらせてもらったり」、夏になると、自分の畑を活用しながら自然の中で子どもたちを遊ばせる活動などを主催するようになってきた。これまでの経験を元に、現在、自分の手で耕すようになった畑からの「子どもに食べさせたい作物」を口にすることで気づいた事柄を、広く伝えたいと考えているのだ。ーつづくー(取材・文/萬年とみ子 撮影/高原 淳)

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話の主は…

弥生の里農園

名寄市弥生町

TEL.090-3893-1177

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きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.53 Autumn 2017より

https://www.n-slow.com/books/books-7923

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
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