2021 Mar
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木のうつわ-2

一刀にすべてを込めて形づくる、木の器

船山さんが表現したいのは、いわゆる「食器」ではなく、木という素材と器という形とを組み合わせることで生まれるもの。以来家具づくりはほとんどせず、ひとり黙々と器を作る学生時代を送ることとなる。

 

とはいえ、当時の船山さんにとって、「作家として生きていく」という選択肢は現実味のないものだった。高校を出て、大学を出て、安定した職に就く。長年培われた価値観は、そうそう簡単に覆らないものだ。

そんなとき、授業を通してとある陶芸家夫妻との出会いがあった。学生たちを自らの工房に案内し、実際に穴窯を使って器を焼かせてくれたのだそうだ。「陶芸家という職業があることは頭では理解していました。けれどそのとき、『あぁ、こういう人たちが、ここに生きているんだ』って実感できたんです」。さらに同じ年、研修で訪れたニューヨークでのこと。アーティストにはさまざまな優遇措置があり、美術館では若手を支援するための募金活動が行われるなど、地域全体でアートを盛り上げていこうという雰囲気をひしひしと感じた。当時の日本では考えられなかったことだ。「作家として生きてもいいんだ」。心の中のしがらみが、ひとつ、ふたつと取り払われていく。思い出されたのは、小さい頃の夢。「絵を描く人になりたい」。大学生の船山さんの中から再びあふれ出してきたのは、「作家になりたい」という強い思いだった。

船山さんの技術は、ほとんど独学だ。学生時代に、どこかの工房に弟子入りすることを考えたそうだが、刳り物を教えてくれる人は見つからなかったという。「それがコンプレックスでもあるんです。でもまぁ、一生勉強ということですね」。整った環境がないことは、一見不利なことに思えるかもしれない。けれど、船山さんにとってはさして重要な問題ではなかった。「作家になりたい」。自らの裡なる声に衝き動かされるまま、とにかく夢中で走り出した大学生の船山さんがいた。

教員免許は取得しなかった。大学卒業後は研究生として1年間学校に残り、その後は友人と一緒に工房をシェアしながら活動を続けた。自分で決めたこととはいえ、不安がないはずもない。ストレスで体調を崩すこともあったと、打ち明ける。「でも逃げ道は作りたくなかった。やるしかないなと思って、最初はアルバイトをしながら、ちょっとずつ」。

ありがたいことに、地域のギャラリーなどから声をかけられて、作品を発表する機会にも恵まれた。結婚後は、自宅に工房を併設して活動を続ける。「旦那の力に感謝ですね」と、茶目っけたっぷりのノロケも忘れない。今では2人の子を持つ母親でもある。「結婚しても、子どもがいても、もっと頑張れる。もっと、頑張ろうという気持ち」。それは、同じく母親となっても活動を続ける、同年代の作家の姿勢から学んだこと。たくさんの出会いから刺激を受け、一つひとつが船山さんの糧になっていった。本誌49号で紹介した西山雪さん(ガラス作家)、忠村香織さん(フラワーアーティスト)との出会いもこの頃のこと。作家としての船山さんの世界は、今も広がり続けている。ーつづくー(取材・文/家入明日美 撮影/菅原正嗣)

木のうつわ-1
■木のうつわ-2
木のうつわ-3

話の主は…

木のうつわ

TEL.090-2074-5716

http://utsuwafunayama.blog.fc2.com

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.55 early summer 2018より

https://www.n-slow.com/books/books-9266

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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