木のうつわ-1
札幌市在住の船山奈月さんは、刳り物という技法を用いて木の器を作る。刳り物とは、鑿(のみ)などを用いて、木片を刳りぬいて作る器具やその技のこと。「指し物」や「曲げ物」と同様に、日本の伝統的な工芸技術として伝わっている。
…というと、ちょっと仰々しく感じてしまうかもしれない。何せ、船山さん自身は、やわらかな笑顔が素敵な、とても気さくな女性だから。
小さい頃からの夢は、絵を描く人になること。学生時代の得意科目は美術。高校生になったとき、「高校の美術教師になる選択肢があることを知って」、札幌教育大学の美術課程に進学する。専攻は、木工だった。「インテリアに興味があったんですけど、科目がなくて。だから、一番近かった木工にしました。家具を作るのが楽しそうだなと思ったんです」。
木に特別な興味があったわけではなかったのだと話す船山さん。どちらかというと、「インテリアとしての家具」という部分に心惹かれていたらしい。ところがいざ授業が始まると、船山さんが当初「木工」としてイメージしていたものとはずいぶん異なる世界が広がっていた。もちろん、いきなり家具づくりができるはずもない。最初は木を削ってペーパーナイフを作ったり、それこそ器を彫ったりといった「地味な」内容からのスタート。しかし船山さんはガッカリするどころか、「(いい意味で)衝撃でした」と満面の笑顔を浮かべる。「器って、彫って作れるんだ」。木工に対する見方がガラリと変わった瞬間だった。それまで、木工品といえばツルリとした手ざわりのトレーやティッシュケースなどの印象が強かったという船山さん。授業を通して、自分の手で少しずつ彫り進めることで形を作り出していく面白さにのめり込んでいく。
ウッドターニング作家のエルンスト=ガンペール氏(ドイツ出身)の作品と出合ったことも、大いなる刺激となった。「巨大な丸太をろくろで挽いて器などを作る方なんです。日本でも、ろくろでお椀とかを作るけれど、もっともっとワイルド!」。木そのものの存在感を活かした大胆な造形。野生的かと思えば、ものすごく繊細な仕上がり。一見して、用途に迷うような形の器もあった。「『木で作る、器という造形』が、すごくカッコいいって思った」。ーつづくー(取材・文/家入明日美 撮影/菅原正嗣)