2021 Mar
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北尾久美子さんの バードカービング-3

尽きない憧れを、森の工房で木に吹き込む

北尾さんの言う観察力とは、日頃から野鳥に目を向け、その息吹を感じ続けると言うことはもとより、例えばバードカービング作りの基礎と言える、剥製や資料からのデータ採集時においても必要とされるものなのだそうだ。作品のモチーフが決まると、北尾さんは博物館へと足を運び、メジャーを片手に剥製をつぶさに観察すると言う。そして、一方で自宅の大きな本棚を埋め尽くす図鑑や資料を紐解く。つまり、あらゆる角度からその鳥を眺めまわすのだ。「背丈とか体重といった単純なデータは図鑑に載ってますけど、嘴や爪、風きり羽といった細かい部分の記録はありませんから、実際に剥製のサイズを逐一測らなければならないんですね。それからモチーフの写真をたくさん並べて、その中から最もその鳥らしさを表しているポーズを決めるんです。バードカービングでは、誰が見ても一目でその鳥だって分かる作品が求められるので」。また、季節の設定があれば、シーズンにあわせて羽の色を変える必要があるし、そのロケーションに沿った生態を忠実に表現しなければならない。こういったあたりには、やはり常日頃から直に野鳥の生態に触れているからこその発想が活きてくるのだろう。

しかしながら、どれだけ観察を重ねたところで羽の模様だけは思うようにいかないのだ、と北尾さん。「彩色にはいつも手を焼くんです。鳥の羽って何て言うんでしょうね。色合いも複雑ですし、光の当たり方によっても随分と変わりますから、つい塗り重ねすぎて失敗したり、なかなか思ったような色が出せなかったりで」と、作品を手に苦笑い。「どれだけよく眺めてみても、たった一枚の羽に存在するグラデーションが表現しきれない」。例えるなら、夕陽もそういえるだろうか。天の采配による色彩の変化は、どんな表現をもってしても足りないくらい。あまりに繊細で、再現は到底不可能に思える。しかし北尾さんに悩む様子は無く、むしろ穏やかに微笑みを湛えながら言う。「ほんとに綺麗ですからね、自然の鳥の羽って。だから、いかにそこに近づけるかです、難しいけれど」。

特に心を掻き立てられるのは、例えばカワセミのように、見るも鮮やかな色彩を纏った鳥ではなく、意外にも白い鳥なのだそうだ。一見真っ白な羽根が、白と影が混在しながら、光の加減次第で複雑な変化をみせる様を表現したいのだという。「いつか必ず白梟(ふくろう)を作りたいと思ってるんです。もうちょっと技術が追いついたら(笑)」。

しかし、長い付き合いの果てに、今では「鳥の表情までわかるようになりました。ちゃんと意志を持っていて、それが伝わってくる」という北尾さんのことだ。いつの日かきっと、思い描いたとおりの羽をその手で生み出すに違いない。やっと森の工房の仲間入りを果たすことになった白梟の身体を包む、一枚の羽として。ーおしまいー(「スロウ vol.202009年夏号掲載)

北尾久美子さんの バードカービング-1
北尾久美子さんの バードカービング-2
■北尾久美子さんの バードカービング-3

話の主は…

スタジオZERO

札幌市中央区宮の森216丁目 

TEL.011-615-6750

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.20 Summer 2009より

https://www.n-slow.com/books/books-205

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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