café Jorro
街の喫茶店は、大好きな場所だった。友人たちとさまざまなことを語り合ったり、マスターや常連客たちの人生哲学に耳を傾けたり、一人で物思いにふけったり…。そんな喫茶店ブームの頃、カフェジョウロの店主、中山一郎さんは、まだ学生だった。
「帯広の街中には100軒以上の喫茶店があったんです。そのほとんどがもうなくなってしまったけれど…」。青春時代に憧れた喫茶店のマスターたちの姿。いつかは自分もあんな風になれたら、と思っていた。実際に中山さんが始めたのはインド好きが高じたカレー屋だったけれど、2000年から市内で営業し、スープカレーの店として多くのファンに愛されてきた。
スパイスが効いていながら油っこさのないスープ、それに無水鍋で崩れる寸前まで煮込んだ知床産の鶏肉や自家製の野菜を盛り付けたシンプルなスープカレー。
2回の移転を経験し、そろそろ憧れの「喫茶店のマスター」を具体的に夢見るようになった頃、近所の古民家の存在を知る。1年ほどかけての大改装。上下水道を引くところから始まり、壁の断熱など、結局は大幅に手を入れなければならなかったけれど、腰折れ屋根の家は、かくして立派なカフェとなって人々を迎えられるようになる。さらに結婚も決まり、その後に一男をもうけるなど、中山さんの周りはこの家に来たのを機に、にわかに賑やかになってきた。
移転する前はカレー中心だったメニューも、キタノカオリの全粒粉パンや野菜サラダ、スイーツ、ハンドドリップのコーヒーなど、よりカフェらしく、地元のものが味わえるメニューが増えてくる。
すっかりカフェのマスターらしくなった中山さん。家を直す直前に伐採されてしまった周辺の木々のことを思って少しずつ苗木を植え、「いつかまた動物たちが住む森にしたい」と新たな夢を語ってくれた。(「北海道、私たちの旅 スロウなカフェを訪ねて⑥」2015年5月25日発行より)