2021 Mar
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山田農場-4

土地がくれるものを受け取り、土地の力を借りて生きること

山田夫妻の話からは、チーズづくりについても、同じ原理原則のようなものが貫かれていることが伝わってきた。手搾りした乳を生乳のまま自生乳酸菌を使ってチーズづくりをしている。一般的には、搾った生乳を低温殺菌し、乳酸菌の粉を加えることでチーズをつくっているらしいのだが、山田農場ではこの土地にいる乳酸菌で、発酵食品であるチーズをつくっている。目には見えない世界でのことなので、理解するにはほんの少しの忍耐と努力が必要だ。しかし、圭介さんによれば、保健所の担当者と菌数などのデータを共有し、話し合いを継続してきたことで、今ではこの地域にいる乳酸菌でチーズづくりができるようになっているのだと話してくれた。

「僕らがちゃんと調べて、丁寧に数字などのすり合わせをしていけば、役所の人も相談に乗ってくれる。冷静な話し合いが必要なだけで、ここまでいい関係を築いてきたと思う」。人に対する圭介さんの態度も、彼らの生き方に沿っているように感じられて、とても共感できる。

愛知県で生まれ育った圭介さんは、島根県にある全寮制の高校時代、チーズづくりに興味を持ち、18歳のときから北海道、新得町にあるチーズ工房で修業を積む。一方、東京生まれのあゆみさんは大学卒業後、道北の酪農家の元で8年、その後スイスの酪農家のところに1ヵ月ほど滞在。帰国後、2軒の農家で経験を積んだ後、圭介さんが働いていたチーズ工房へ。ここに至るまでに10年近い年月を過ごした2人は、独立して牧場を営むためにガロ地区に移り住んできた。

あれから、さらに10年が経って、2人は農場と共に3人の子どもも授かった。冬の長い北海道だけに、「山羊は北海道向き」と多くのことを受け入れながら、この土地、この地域に合う農業のかたちを模索してきた2人だった。今では、「チビ」を入れると、飼っている山羊は30頭、羊は10頭。うち、18頭から搾乳しては、毎日チーズをつくっている。

山羊の搾乳は12月には終わる。だから、冬期間はチーズの売店も閉めてしまう。「今シーズンはおしまい」というわけだ。自然交配できる山羊が発情し、子どもが産まれる春までの間は、2人にとっては長い冬休み。「大学を卒業して酪農の世界に入ってから初めての冬休みでした」と笑うあゆみさん。オフシーズンは「気が楽でいい」と、2人はどこまでも屈託がない。北海道の長い冬の期間中、自然交配できる山羊のおかげで2人は搾乳から解放され、ゆっくりと冬休みを満喫する。90%以上、人工授精に頼っている牛の場合、発情は通年、妊娠期間は10月10日だから搾乳の仕事が絶えることはなく、当然人間にも休みはない。そんな意味で、寒さの厳しい冬期期間中、搾乳の必要がない山羊は、北海道に向いていると2人は思っているようだった。

幸せな家族、幸せな暮らし、やりがいのある仕事。もし、それらを手にできたとしたら、人にはそれ以上望むことが残されているのだろうか。山田圭介さん、あゆみさん夫妻を前に、そんな思いが自然に湧き上がっていた。夫妻が営む山田農場を訪れた秋の日、山羊のチーズや放牧のこと、ガロ地区に棲んでいる目には見えない乳酸菌のこと。実に多くのことを耳にしながら、それでも最後に残った印象、思いは、そんなシンプルなことだった。

人が求め続けている幸せや豊かさのひとつのかたち、ひとつの答えが山田農場にはある。そんな風に思えたからだ。夫妻が最後に話してくれたことが今も心に残っている。「食べたいものを自分たちの手で作り、自ら望んで好きなことをして生きている」。そんな価値基準で生きていることを、2人は最後に、念を押すかのように、わかりやすい言葉にして伝えてくれた。ーおしまいー(「スロウ No.50」2017年冬号掲載 取材・文/萬年とみ子 写真/高原 淳)

山田牧場-1
山田牧場-2
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■山田牧場-4

話の主は…

山田農場

七飯町上軍川900-1
TEL&FAX.0138-67-2133
冬期間休業/1月〜3月頃
http://yamadanoujou.blog.fc2.com

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.50 winter 2018より

http://www.n-slow.com/books/books-6152

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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