2021 Mar
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クリーマリー農夢-3

放牧ミルクの小さなチーズ工房

寝床とは別に搾乳室を設けているのは、どこまでもきれいな乳を搾りたいから。寝床と同じ場所で搾乳すれば、どうしても水などを使うことになって、敷き藁がぬれてしまう。牛にとっては不快な上、汚れにもつながってしまうだろう。別に設けられている搾乳室なら、充分にシャワーを浴びられる。乳の周りはもちろん、足などもきれいに洗えるから、搾った乳に液化した糞やゴミ、汚れ、細菌、消毒剤などが混じる心配もない。

牛舎の床には厚さ35ミリのゴムマットが敷かれていた。「ひづめに優しいから」と佐竹さん。コンクリートではそうはいかない。ひづめを傷めることだってある。牛舎の壁の至るところに掛けてあるブラシは、牛がかゆがっていたらその部分にすぐにブラッシングができるようにと考えてのこと。搾乳が終わり、シャワーの後にも、ブラッシングが待っている。「(牛は)しょっちゅうかゆがるから、かゆがっているときにすぐにブラシでかいてやると、仲良くなれる」。こんな風に、クリーマリー農夢での牛たちに対する気遣い、優しさを数え出したらきりがない。「きれいな乳を搾るため」に実行されていることは、とても多い。でも、佐竹さんにとって、きれいな乳を搾るのは結果であって、決して目的ではないようだ。牛が暮らすのに快適な環境を用意し、まずは牛と仲良くなること。それが牛を飼う理由。

そう考える佐竹さんだから、牛は決して道具でも機械でもない。言ってみれば、友だちのような存在なのかもしれない。「搾乳は牛と人の共同作業」。そこにはいつも、「搾らせてもらえるかい?」、「いいよ」という会話が介在している。ストレスがかかっていると、牛たちは快く乳を搾らせてはくれないのだ。

「4産した頃から牛と意思疎通ができるようになる」。多くの牧場では、経産牛の寿命は2年ほど。でも、クリーマリー農夢では、余程のことがない限り、長く乳を搾り続ける。怪我をしたり、病気にかかることもあるが、人間と同じように治療を受けながら。4歳を過ぎる頃には、牛たちは佐竹さんに気遣って動いてくれるようになってくるという。「牛を飼っていて、そこからが面白い時期」。

搾ったばかりのきれいな生乳は隣接した加工場のバルククーラーに移され、牛乳、チーズ、バター、ヨーグルトなどに加工されていく。まずは低温殺菌することで牛乳に、残った生乳をその他の加工品にという流れは、当初から変わらない。

チーズについては、昔は習うところがなかったからと、佐竹さんは自分で研究しながらここまできた。母牛の乳頭には天然の乳酸菌が付いていて、母牛の乳を飲んだ仔牛は自分の体温で乳を温め、胃の中にあるレンネットという凝乳酵素でヨーグルトのような状態にして消化しているのだという。そう考えれば、ヨーグルトはもちろん、チーズなどの発酵食品の作り方は、すでに自然の中にある。それが、佐竹さんの加工品作りの原点だ。

「小さいからできることを一生懸命やるようにしている」。細部にまで気を遣い、手をかけ、身を粉にして働くことの尊さが伝わってくる。「ほんとうは、(オーストラリアやニュージーランド、カナダなどの)農業国で酪農をしたかった」と思う日もあるのかもしれない。日々の努力がそのまま認められ、報われるような。でも、「大好きだから」と、牛たちがくれたきれいな乳で造った自家製チーズを毎晩口にするとき、そのあまりのおいしさに、ひととき、そんなことを忘れてしまう佐竹さんがいることだろう。ーおしまいー(取材・文/萬年とみ子 撮影/高原 淳)

クリーマリー農夢-1
クリーマリー農夢-2
■クリーマリー農夢-3

 

 

 

 

話の主は…

クリーマリー農夢

旭川市神居町上雨紛539-9

TEL.0166-62-9380

定 休 日/水、木曜

 

http://www7a.biglobe.ne.jp/~creamery-gnome/

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.52 Summer 2017より

http://www.n-slow.com/books/books-7175

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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