2021 Mar
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クリーマリー農夢-2

放牧ミルクの小さなチーズ工房

オーストラリア時代に学んだこと、身に付けたことは多い。週に一度、酪農学校のようなものが開かれていて、雇い主は佐竹さんに外出を許可し、学ぶ機会をくれた。牛舎の建て方、基礎の造り方、レベル(水平)をどうとるか。補助金制度のようなものは一切ないが、国籍問わず、学ぶ機会を与えてくれるのがオーストラリアなのだという。教育にかかる費用はすべて無料だった。

酪農家として独立する機会も、国籍問わず、平等に与えられていた。乳価は農家ごとに乳業メーカーとの交渉によって決まる。そこでものをいうのが、生乳に含まれている生菌数。とにかく、オーストラリアでは、最大限にきれいな生乳が求められているのだ。佐竹さんは牛や搾乳小屋などを清潔に保つ工夫や努力を欠かさず、年間を通して生菌数を3000未満に抑えたことで、「牧場を紹介する」、「融資をしよう」という話が佐竹さんの元に寄せられたという。独立を促してのことだ。生菌数の少ないきれいな生乳を生産することはそのまま、オーストラリアでは酪農家の実力として評価される。乳価も上がり、バターを作る企業などからの融資にも繋がっていく。ひいては、努力をしない酪農家の淘汰にも繋がっていく仕組みだ。

佐竹さんにはオーストラリアでそのまま、酪農家として突き進む道もあったに違いない。事実、家族を呼んで、一緒に移住する計画を立てていたという。でも、この時期、父親を病気で亡くしたことで、故郷である旭川に戻る決心をする。家には母親、祖母、姉が残されていたからだ。直子さんという伴侶を得たばかりだった佐竹さんは、オーストラリアで2年を過ごした後、妻を伴って旭川に戻ってくる。
帰国後、11年半にわたって、佐竹さんは製薬会社が経営する農業法人で働いた。独立資金を貯めるためだが、抗生物質を含まない牛糞をハーブの畑に入れるために、牛を健全な状態で飼うという仕事は、佐竹さんのためにあるような仕事だったことだろう。
勤めながら離農地を探す中で、佐竹さんは再び、大きな決断をする。100頭の乳牛を飼う計画を立て、そのための補助金申請をしていたところ、それが通ってしまったのだ。
3億3000万円の借金をすることになっていた。翌日には書類に判を捺すというその夜、佐竹さんと直子さんは話し合う。「これがほんとうに自分たちがやりたいことだったのだろうか」。「補助金なしで、自力で。牛1頭で食っていく道はないのだろうか」。きっと、2人の心はずっと以前に決まっていたことだろう。「ほんとうにやりたいこと」。「ずっとやりたかったこと」。

大規模酪農への道を自ら断ち、再び探し始めた小規模酪農のための土地。子育てを通じて広がった人間関係の中で見つかったのが、現在の土地だった。敷地に建つ母屋、牛舎などは、オーストラリア時代に身に付けた知識と技術を駆使し、友人たちの力を借りながら、自分たちの手で建てた。牛舎の構造もオーストラリアで学んできた経験や知識がベースになっている。酪農を目指し始めた20歳の時に読み、感銘を受けた本、ルース・ハリソンの「アニマルウェルフェア」の考え方。それらをこの農場で形にしていくこと。酪農に対する夢が広がっていく。

3頭の牛からスタートし、5頭、9頭と増やした時期を経て、牧場にいる経産牛は、今では6頭。搾った生乳を低温殺菌で加工し、近隣を中心に30軒の家庭に週1回、早朝に配達し始めたのは、1995年3月のこと。あれから22年が経ち、今ではスタート時の4倍ほどの家庭に牛乳の配達を続けている。

佐竹さんは小さな酪農で生きる道を選んだ。そこでは、人も牛も幸せでいられるからだ。牛が快適に過ごせるようにと、クリーマリー農夢の牛舎は驚くほど清潔に整えられている。牛舎に入っても、ほとんど臭いがしないほどの清潔さ。

土の上の寝床にはいつも新しい敷き藁が敷かれている。コンクリートの上ではなく土の上に。コンクリートの上だと、寝起きの際に足がこすれ、傷が付いてしまうからだ。土の寝床は夏はひんやりとして気持ちがいい。暑さが苦手な牛にとって、とても快適なことだろう。

牛舎の中でも草地同様、つながれることはないから、牛たちは寝床を自由に選び、好きなところで眠ることができる。お腹が空けば、食事スペースに用意されている干し草がいつでも食べられるし、搾乳後には、1頭ずつ中身を変えた特別な配合飼料だって食べられる。昼間は青草を食べに、放牧地には自由に出て行ける。牛舎の糞や尿は溝を伝って、自動的に外に運び出されていく構造だ。寝床の前は風通しがいいようにと大きく開けられているから、牛たちは風を感じながら快適な眠りにつくことができる。ーつづくー(取材・文/萬年とみ子 写真/高原 淳)

クリーマリー農夢-1
■クリーマリー農夢-2
クリーマリー農夢-3

話の主は…

クリーマリー農夢

旭川市神居町上雨紛539-9

TEL.0166-62-9380

定 休 日/水、木曜

 

http://www7a.biglobe.ne.jp/~creamery-gnome/

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.52 Summer 2017より

http://www.n-slow.com/books/books-7175

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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