2019 Jun
27

石狩市民図書館-1

赤いタマゴは、大きな市民の夢

日当たりのよいエントランスのテーブルに集う人々、カフェで本を読む学生。本のある図書コーナーへと誘う豊かなグリーンはさながら街路樹のようでもある。それもそのはず、この図書館のコンセプトは「図書館の中にまちをつくろう」。まちの中に図書館があるのはあたりまえ、図書館の中にまちがあることが、ここのおもしろさなのだ。

 

閲覧室や学習室などが無い代わりに、広い館内のそこかしこにちょっとした読書スペースが設けられている。それは本棚の間に設置された共有テーブルだったり、本の背表紙を眺めながら座れるソファだったり、はたまた日当たりの良い畳の小上がりスペースだったり。利用者はそれぞれに自分のお気に入りの場所を見つけて時を過ごすわけだが、開放的なインテリアのおかげか、どこにいても孤独感に見舞われることはなく、かといって「個」を侵害される不快感もない。 本の貸し出し冊数は無制限。さらにはどこの国から県から町から来ても、ここで本を借りることができるのだ(ちゃんと返しに来られればの話だが)。全道でもはじめて設置されたという自動貸出機も便利だが、同時に職員の対応もとても丁寧。駐車場も広くて通いやすいと、札幌や他の街からの利用者も非常に多い。

知的好奇心と居心地の良さを同時に満たしてくれる、血の通ったサービスを感じずにいられないこの図書館。しかし本当にすごいのは、図書館を愛する市民の想い。それこそが、この図書館に血を通わせている心臓部なのである。

石狩市民図書館について語るとき、なんの悪気もないとはいえ、ついうっかり「いしかりとしょかん」などと端折ってしまってはいけない。なぜなら石狩市民図書館とは、長い長い行政への訴えの末にようやく実現された、「市民」の夢そのものなのだから。

そんな想いを語ってくれたのは「石狩市民図書館とあゆむ会」メンバーだった。 「とにかく石狩というのは全く何にも無いまちだったんです。だから文化の核としての図書館が欲しかった」(西さん)。まちに図書館が無いことに最初に疑問を持ち、互いに声を掛け合って動いたのは、子育て中の若い母親たち。「だっこしたりおんぶしながら当時の役場まで行って、図書館が欲しいんです! って言ったんです。そしたら石狩は伸びているまちで、学校やたくさんの施設を建てなきゃならないからダメだよ、と」(西さん)。

札幌のベッドタウンとして急速に成長した石狩市は、1960年代から、爆発的に人口が増加したまち。国策でもある石狩湾新港の建設もさることながら、この頃ちょうど道内の炭鉱で退職金を手にした人々が札幌に職を求め、さらに近郊で土地の安い場所として住みはじめたこともあったようだ。しかし、急激過ぎる人口の増加は、市民生活のあちこちに一時的なひずみをもたらしていた。「とにかく子供たちには劣悪な環境でしたから。うちの子が育った時なんて教室をプレハブで足すほどでした」(羽田ださん)。当時の行政の緊急課題は学校と上下水道の整備。「自分たちのまちに図書館が欲しい」と願う若い母親たちの声を、聞いてあげたくてもあげられない財政的な事情もあったし、行政の図書館そのものに対する概念もまだ浅く、とにかく図書館建設などは二の次三の次であった。住民が主役とはいいながら…。若い彼女たちが自分の無力さを痛感したことは言うまでもない。しかしそこであきらめてしまえるほど、図書館への想いは軽くはなかった。「陳情とか請願とかも全然知りませんから、どうしたらそういう思いを議会に出せるの? てそこから勉強したんですよ」(西さん)。彼女たちがまず知ったことは、自分たちが「何も知らずに」生きていたのだということ。その『知る』という、人間にとって最高の力を得るためにこそ、実は図書館が存在するということも後に知るわけであるが、とにかく彼女たちは踏み出すことにした。つ叶うともしれない夢に向かって。―つづくー(「スロウ7号」2006年春号掲載)

■石狩市民図書館-1
石狩市民図書館-2

話の主は…

石狩市民図書館

石狩市花川北71丁目26

TEL 0133-72-2000

https://www.ishikari-lib-unet.ocn.ne.jp/index.asp

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.7 early summer 2006より

https://www.n-slow.com/books/books-250

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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