2019 Jun
27

世界に一冊だけの本・展-2

本の形は無限大。今のあなたにしか、作れない本がある。

本展の1回目と2回目は、函館山のふもとにあるギャラリーを自腹を切って借り、開催した。しかも約2週間あった会期中は、自分の店の営業を休み、会場に張り付いた。それは、中村さん一個人としてあまりにも負担が大きく、続けていくことは「正直しんどかった」。誰か引き継いでくれる人はいないだろうか、そんなときに声をかけたのが友人のこがめいづるさんだった。

本誌15号でも紹介したことのあるこがめさんは、函館に住む絵本作家。中村さんからのラブコールに、「たまたま私がいたから、流れで引き受けることになってしまったんですよねえ」と苦笑いを浮かべるが、こがめさんほど手作りの本を愛し、本展の重要性を理解している人はいなかったに違いない。また、こがめさんが実行委員長を引き継いだ年に、ちょうど地域交流まちづくりセンターがオープンし、場所の確保がスムーズにできたことも、本展を存続する上で追い風となった。

とはいえ、引き受けた当初は出展者が思うように集まらず、かなりの苦労をしたと、こがめさんは顔を曇らせる。「今は、黙っていても自然と本が集まってくるようになりましたが、初めの頃は本当に集まらなくって。会う人、会う人に出展しませんか、と呼びかけていましたね。サポートしてくれる人の繋がりができて、回を重ねるうちに少しずつ冊数も地域も増えていったんですよ。これが積み重ねてきた成果なのかと、しみじみ感じています」。晴れやかな表情を見せてくれたこがめさんだが、その表情の陰に出展者を増やすための地道な活動があった。

ただ呼びかけるだけでは、本は集まらなかった。興味はあっても、出展するまでは思い至らない人をどう取り込むか。また、本作りに関心を持ってくれる人の裾野を広げることも課題だった。こがめさんは「本を作ってみたい、興味がある」人たちを対象とした相談会や、実際の本作りに必要な製本の方法をアドバイスする講習会を毎年本展の応募が始まる前に開き、本を作ること、作った本を発表することの面白さを伝え続けてきた。「必要なのは気持ち。こういうのを作りたいというイメージがある人、作りたいという思いがある人はできる!」と、こがめさんの言葉に力が入る。

誰にでも好きなことはあるし、誰にでも伝えたいことはある。肩肘を張らずに、それを本という器に盛り付けてあげれば、きっとその思いは何らかの形で読んだ人に伝わっていく。「ここ(会場)に本があることで、繋がることがたくさんあるんですよね。『あの人こんなことやってるの?』とか、『この場所知ってる!』とか、『この作者の方は、僕の担任だったんです』とか、『手紙を書いたので渡してほしい』という人がいたり。いろいろな出会いがあるんだなあ、って思うんです」。

本展の会場には、今まで足を運んだ展示会では感じたことのない特別な雰囲気があった。人のまばらな会場には、窓から差し込む穏やかな陽を浴びた、色とりどり本の表紙がずらりと並べられている。印象としては温かみのある空間なのだけれど、会場には背筋がピンと伸びるような緊張感が潜んでいた。テーブルの上に並べられた本を、1冊1冊丁寧に手に取っては貴重な茶道具でも拝見するかのように、製本の細部にまでじっくりと見入る人。テーブルの脇に置かれた椅子に座り、舐めるように本のページをめくりながら読みふける人。人それぞれ、思い思いに気になる本と向き合う姿があった。

「どっと人が押し寄せて来るわけではないけど、来た人の滞在時間が長いんです。1~2時間はざら。一日中いる人もいるんですよ。開催中に何度も来てくれ、別のお友達を連れてくる人もいますね。会場で様子を見ていると、みんな気になる本が違うところが面白いんです。準備は大変なんですが、毎回やり始めると本を見るのが待ち遠しくなってきて、やめられなくなるんです」。本展の中核となってサポートしてくれるメンバー、毎年の本展を心待ちにするファンや出展者の存在が、励みになっていると、こがめさんは話す。

何気なく、展示されていた本を手に取った。パキパキに糊付けされた表紙が波を打っていた。ページをめくるたびに、ミシミシと音がする心もとない製本。使われている写真はピンボケ気味。サインペンで書かれた、どこかぎこちのない文章。でもなぜか引き込まれる。何なんだろう、この引力は。気づいた時には、目の前の本の世界にどっぷりと浸かり、読み進める手を止めることはできなくなっていた。そして、本を読み終えると、心地良い感動に全身が包まれていた。こがめさんの言う“作りたい気持ち”が、本にはあふれていた。ーおしまいー(「スロウ vol.38」2014年冬号掲載)

世界に一冊だけの本・展-1
■世界に一冊だけの本・展-2

話の主は…

世界に一冊だけの本・展

*今年は、11月22~29日に函館市地域交流街づくりセンターにて、

11月30日~12月6日に函館コミュニティプラザ Gスクエアにて、開催予定。

https://handmadebook.wixsite.com/book/2018

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.38 winter 2014より

https://www.n-slow.com/books/books-151

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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