2019 Sep
21

鹿追町の小さな出版社たち-5

絵本に綴じるのは、お母さんのたっぷりの愛

最後にご紹介するのは高瀬美里さん。一番上の太一くんを妊娠している時に絵本作りを始めて以来、子どもが産まれるごとに一冊ずつ、計3冊作ってきました。高瀬家の子どもたちにとっては、お母さんが作る自分が主人公の絵本が最初の1冊(ファーストブック)というわけです。

妊娠時から作り始めた美里さんの絵本には、白黒のエコー写真も貼り付けてありました。お腹の中にいる時から始まり、お父さんとお母さんがとても待ち望んでいたこと、どんな名前にしようか懸命に考えた時のこと。そして、誕生した瞬間までが写真や絵を見てわかるようになっています。「本当に、この絵本だけは特に大事にしていますね。太一はいつも絵本を神棚に上げてたんですよ。私が宝くじとか、大事なものを置いているのを見てそれを真似して。絵本もそこに置いてくれって言うんですよね。もちろん届かないから、私が出し入れしなくちゃいけないんですけど(笑)」。

高瀬家では、絵本は必ずそれぞれの誕生日の夜に家族皆で読むことに決めています。「誕生日には、この絵本を作って良かったなって本当にそう思います。『生まれてきてくれてありがとう』とか、改めて面と向かっては言いにくいじゃないですか。でも、これを読むと、こうやって生まれて、今こうして元気に育ってるんだねって親子で一緒に感じられますから」。

それから、特別な記念日だけでなく日常生活においても、美里さんはこの絵本に救われることが度々あるのだと教えてくれました。それは例えば、日常に追われてイライラする時や心にゆとりが無くなってしまった時。「子どもと一緒に読むと、母として原点に戻れるっていうか、優しい気持ちになれるんですよね。つい育児に追われて忘れちゃうけど、『そうだった、こんなに大事に大事に望んで産まれて来たんだった!』って」。

子どものために、と思って作っ絵本だけれど、それはいつしか美里さんや他の家族にとってもかけがえのないものになっていました。自分自身のために作るのではなく、大切に思う誰かのために一生懸命に作るからこそ、自分の心にある感情を素直に出せるのかもしれません。

美里さんはこれから、昨年12月に生まれた3人目、葵ちゃんの絵本を作るところです。既に、上のお兄ちゃんたちも手伝う気満々だとか。家族の愛情をたっぷりもらって、すくすくと育つ葵ちゃんが目に浮かぶようです。

さてさて、お母さんたちの手作り絵本はいかがでしたか?

「作る過程ももちろん楽しいんですけど、絵本をプレゼントした後の様子を聞かせてもらうのが本当に嬉しいですね。感動を分けてもらって、とっても温かい気持ちになるんです」とは、これまで百何十冊もの絵本作りをお手伝いしてきたにも関わらず、毎回生まれるドラマに未だ感動するばかりだという明美さんの言葉です。

たしかに、こうしてそれぞれのお母さんたちの話を伺ってみると、それも頷けます。どうやら手作り絵本の場合、そこに込められた思いが贈られた人へと一方方向に伝わるだけでは終わらないようですから。他の家族や、絵本を手にしたまた別の人へも伝わり、そして時には、絵本を作ったお母さん本人の未来までへも。時が経ってから読み返すことで、また違ったかたちでその時の思いが伝わっていくようです。

絵本に込められるのは、まさにその時に感じていること。大切な人を思う気持ちや、どんどん成長していく子どもたちに対する今の気持ち。手描きの文字や絵のひと筆ごとに閉じ込められたそれらは、時間を経ても決して色褪せることはありません。手作り絵本はまるで、一時の大切な感情を記録してくれるタイムカプセルのような役割も果たしてくれるようです。

さぁ、お母さんたちの小さな小さな出版社。今度はいったいどんな絵本が、愛情たっぷりに発行されるのでしょうか。ーおしまいー(「スロウ vol.312012年春号掲載)

鹿追町の小さな出版社たち-1
鹿追町の小さな出版社たち-2
鹿追町の小さな出版社たち-3
鹿追町の小さな出版社たち-4
■鹿追町の小さな出版社たち-5

話の主は…

鹿追町の小さな出版社たち

司書の資格を持つ伊藤明美さん(写真前列右)を中心に活動。鹿追町の図書館で、絵本作りの教室も開催しています。

 

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.31 early summer 2012より

https://www.n-slow.com/books/books-167

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

category