鹿追町の小さな出版社たち-2
まず一人目のお母さんは4人の子を持つ佐藤照美さん。最初に作ったのは、次女の朝香ちゃんの絵本でした。タイトルは、「むし むし あさか」。姉弟の中でも特に感情豊かだった朝香ちゃんを七色に変化する虫に例えたお話です。
「子どもたちに色んな話をしてあげたい。それを形にできたらいいなという思いは前からあって、子育てが少し落ち着いた時に明美さんと知り合ったのがきっかけですね」。2冊目は長女のまいちゃん、3冊目は貴洋くん、そして末っ子修平くんの絵本が最後に完成。1年に1冊ほどのペースです。
照美さんが絵本作りを始めた時、もう上の子どもたちは小学校高学年になっていて、積極的に絵本を読むような年ではなかったから、全員分を作るつもりはありませんでした。「でも2冊目ができたとき、上のお兄ちゃん(貴洋くん)が『俺のはないの?』って聞いてきたんですよね。その時中学3年生だったから、まさかそう言ってくれるとは思ってなくて。素直に嬉しかったですね」。
絵本は、誕生日やクリスマスなどの記念日にそれぞれプレゼント。子どもたちがお互いのものを読み合って「あの時はこうだった」とか、「誰々はこうだった」と絵本を中心に会話が広がることもしばしばだとか。姉弟同士の思い出を繋ぐアイテムにもなっているようです。「いずれ家を離れたり、お嫁に行く時にも持っていってもらいたいですね」と、照美さん。
ちなみに、最新作は残る一人の大事な家族へ届ける予定。ただし、本人に知られないように制作を進めているところなので、ここではまだ内緒です。発行は秋を予定しています。
宇井比登美さんもまた、子どもたちのために絵本を作りました。長男の響くんへは、まだ比登美さんのお腹にいる時から共に成長してきたという、宇井家にある一本の木の不思議なお話です。「木がちょっと元気ないなーと思うと、響がケガをしたり、体調を崩したりするんです。妊娠中からそんな偶然が何度か続いて…」。比登美さん夫婦にとっても大事なその思い出を、響くんの成長を軸にしながらストーリーに仕立てました。
それから、制作時に2歳だった妹の心ちゃんへは、数字も一緒に覚えられるような仕掛けを組み込んだ、ちぎり絵の絵本を。比登美さんだからこそ知っている、娘の大好物だけを集めて題材にしてあります。「内緒で作っていましたから、渡したときは、もうそれは大喜びでした」とにんまり。時々絵本を開いては読んで眺める子どもたちを微笑ましく見守っているそうです。
「絵本は、言葉じゃないところで親の愛を感じられるものですよね。私も親からもらった一通の手紙を今でもずっと大事にとってあったりするので、この絵本が二人にとってそういうものになればいいかなって」。比登美さん手作りの絵本は、響くんや心ちゃんが大人になってからもずっと、彼らの大切な宝物であり続けることでしょう。ーつづくー(「スロウ vol.31」2012年春号掲載)
■鹿追町の小さな出版社たち-1
■鹿追町の小さな出版社たち-2
■鹿追町の小さな出版社たち-3
■鹿追町の小さな出版社たち-4
■鹿追町の小さな出版社たち-5