2019 Sep
21

鹿追町の小さな出版社たち-1

絵本に綴じるのは、お母さんのたっぷりの愛

幼い頃のアルバムを開くと、感情が込み上げてきて胸がいっぱいになることがありませんか。自分を捉える写真のアングルや、一緒に写っている家族の表情、そこに添えられるひと言。そうした端々から、いつでも惜しみなく自分へ注がれていた家族の愛情が感じ取れるからです。普段はなかなか改めて実感する機会も少ないだけに、ページから溢れんばかりのその愛に胸が熱くなり、思わず鼻の奥がジンとしてしまったり。

鹿追町に住むお母さんたちが手作りする絵本もまた、アルバムと同じように愛がたっぷり詰まっていて、それは時に他人ですら涙してしまうほど、どれも読み手の心を揺さぶるものばかりでした。お母さんたちが絵本に込める思いはいたってシンプルです。子どもたちへの愛や両親への感謝。シンプルだからこそ、多くの人が共感できるし、真っ直ぐに読み手の心に響きます。

絵本については詳しく後述するとして、まず初めにご紹介しておきたい人がいます。伊藤明美さん。司書として勤務していた頃に習得した製本の技術を活かし、自分の子どもたちと一緒に作ったのが、絵本作りの始まりです。教員の夫と共に十勝管内を転々とする中で、お母さんたちに絵本作りを手ほどきすることに。とは言っても、「私はほんのちょっとコツを伝えるだけ」という言葉通り、技術を要する製本の仕上げを引き受ける以外は、ひと言ふた言のアドバイスをする程度です。例えば、絵の描き方ひとつとっても水彩画やステンシル、色鉛筆や版画など様々。絵が苦手な人は写真を貼るという方法もあります。そうしたアイデアや画材を提供し、お母さんたちに選択肢を教えてあげるのが明美さんの役割なのです。「なかなか絵が描けなかったり、字に自信がないからと最初のひと筆を入れられなかったりするお母さんも多いんですけど、でもね、いったん描き始めれば、みんな夢中になって手を動かすんですよ」。

ちなみに、お母さんだけでなく、おじいちゃんおばあちゃんが孫のために作ったり、自分史として作ったりすることもあるとか。「みんな誰でもドラマを持っているんです。何気ない生活のひとコマでも絵本になります」。そんなひとコマから生まれる感動をおすそ分けしてもらうのが、明美さんの何よりの喜びなのだそうです。

さて、明美さんが鹿追町へやって来て今年で早13年。絵本作りの輪は、ここに来てますます盛り上がりを見せています。愛する誰かのために夢中で絵本を作るお母さんたちと、その個性溢れる作品たちをご紹介しましょう。ーつづくー(「スロウ vol.31」2012年春号掲載)

■鹿追町の小さな出版社たち-1
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話の主は…

鹿追町の小さな出版社たち

司書の資格を持つ伊藤明美さん(写真前列右)を中心に活動。鹿追町の図書館で、絵本作りの教室も開催しています。

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.31 early summer 2012より

https://www.n-slow.com/books/books-167

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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