シミー書房の本づくり-3
作品づくりの傍ら、大学や専門学校で「本づくり」について教える授業を受け持っている新明さん。授業の中で生徒に必ず投げかける質問は、「本とは、何だと思いますか?」というもの。
反応はそれぞれだ。「旅」と答える人もいれば、「知識」と言う人も。それに対する新明さんなりの考えは、「本とは、モノである」ということ。
きっと、「読む」ことによって得られるものを本の本質と考えている人は多いのではないだろうか。本を読むことで感動したり、冒険している気持ちになれたり、賢くなったり。だけどそれらは、おそらく電子書籍で代替できるもの。本を本たらしめているものは、表紙やページをめくるときの紙の質感や、本を綴じる糸であったりする。
シミー書房の本は、「本とはモノである」という考え方を伝えるため、あえて1本の糸で綴じただけの簡易製本が多い。なかには、袋とじのように自分でページを切らなければ読めないアンカット本や、ページが蛇腹状に折れ曲がって繋がっている本もある。「本がどのようにして作られているかを知ってほしいから」と新明さん。
シミー書房の本づくりとは、本にしかできない表現があることに気づかせてくれるもの。本だからこそできることがあるから、ふたりは本を作り続ける。
ふたりに話を聞いてから一週間後。胆振東部地震が起き、北海道中が暗闇に包まれてしまった。翌朝十勝の太陽は、シミー書房にお邪魔したあの日のように、燦々と大地に降り注いだ。
ふと気配を感じて視線を向けると、そこにあったのは本だった。
何も主張することなく、静かに整列し、本棚に収まる本の背に手をかける。窓際の日だまりに包まれて、1枚1枚、ゆっくりとページをめくる。すると、不思議と心が落ち着いてくる。本にしかできないことが、この手の中にある。目を閉じて、2人の話を思い出していた。―おしまいー(取材・文/石田まき 撮影/高原 淳)
■シミー書房の本づくり-1
■シミー書房の本づくり-2
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