2021 Mar
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シミー書房の本づくり-1

本って一体、なんだろう。

「電子書籍が誕生したことで紙の本がなくなる」。そんな議論が巻き起こって早十年以上が経ち、「電子書籍」という言葉にも、すっかり新鮮味を感じることがなくなってきた。

今、印刷会社で本を作る仕事をしている以上、「本とは何なのか」という問いが自分の中でより一層強くなっている。本だからこそできることとは、一体何なのだろう。

シミー書房を知ったのは、先輩からの贈り物がきっかけだった。優しく愛のある言葉に、何とも言えないチャーミングなイラスト。丸い桃色の紙に印刷されていて、1本の白い糸で綴じてあり、めくると話が続く「本」になっている。聞けば、夫婦でユニットを組み、本を作っているという。このふたりからなら、私の問いのヒントになるものが得られそうだ。そんな淡い期待を抱きながら、ふたりに会いに札幌へ行った。

招かれたのは、朱色の煉瓦造りの平屋住宅。自然光が燦々と入ってくる明るい部屋で、ふたりは本を作っていた。柔らかい午前の光が、ふたりの雰囲気にぴったり。明るく笑う新明史子さんは、言葉とデザインを担当。ゆっくりと話す岡部亮さんは、絵を描く人。

教育大学で現代美術と称される作品づくりをしていた新明さん。昔から本が好きだったため、過去に撮った写真をコラージュした「世界に一冊しかない本」を作っていた。卒業後は本州の大学院でさらに感性を磨き、再び帰ってきた頃には札幌の芸術の森美術館から展覧会の誘いを受けるまでになっていた。

しかし、美術展に出展する以上、本は本でも「作品」と呼ばれ、かしこまった警備の下、ケースに入れられ「展示」されることに。本なのに、手で触れることができないことを疑問に思った新明さん。触れられないなら、と壁に展示する巨大なコラージュ作品に作風を切り替えてみるも、家に持ち帰ってみるとそれはただのゴミ同然のように思えた。やりたいことがわからなくなってきた頃だった。

「気に入ったら購入し、所有してもらえる作品を作りたい」。一点ものじゃない本であれば、気軽に購入して生活の中に取り入れることができる。そう考え、改めて本づくりを始めた新明さん。作りたい作品と、その使われ方。どちらも両立できる答が見つかったことで、ストンと納得できたような感覚だったという。

「次に本を作るなら、自分の昔の詩に絵をつけたい。でも自分で絵を加えるとそれは説明になってしまう」。

大学時代から岡部さんの絵をずっと見てきた新明さん。初めて絵を見たときの感想は、「なんて面白い絵を描く人なんだろう!」。そして、岡部さんに頼んで自分の詩に絵をつけてもらうことに。最初は遊び半分で本を作るうち、「やっぱり本を作ることが好きなんだ」という思いを強くした。原点に戻った瞬間だった。

ミュージアムショップや、市内の雑貨店などで本を販売するようになり、自分の作品が誰かの日常に心地良く存在することの喜びを強く感じ始めた新明さん。シミー書房結成当初からの想いだった「触れるし、気に入ったら買ってもらえる美術作品」の始まりだった。―つづくー(取材・文/石田まき 撮影/高原 淳)

■シミー書房の本づくり-1
シミー書房の本づくり-2
シミー書房の本づくり-3

話の主は…

シミー書房

メールアドレス/shimmy@khaki.plala.or.jp

http://www.instagram.com/shimmybooks

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.57 Autumn 2018より

https://www.n-slow.com/books/books-10264

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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