Hütte【ヒュッテ】-2
2015年にオープンしたヒュッテ。スタッフは親方とおかみさんの2人きり。福祉の視点から経営をしていた頃とは、店をやる目的は大きく変わった。「自分たちの生活で、自分たちのやりたいこと、やることを考えて、できる範囲内のことをする」。それは言わば自分たちのための仕事。30年以上にわたり、一緒に働くスタッフの成長や会社としての在り方、広く地域経済について考え続けてきた。そんな2人が新たなステージに踏み出し、改めて自分たちのやりたいこと・できることを突き詰めた結果がこの店なのだ。
すぐそこにはスキー場があり、間近に山が迫る、仁山地区。当初の予定とは場所が違ってしまったものの、今となってはそれがかえって良かったのだと、おかみさん。仁山に家を建てたのは25年以上前だけれど、実は「本当の意味でここで暮らしてはいなかった」そう。これまでは、函館市内と七飯の市街地にあった店舗へ早朝に出勤する日々。夕方帰宅するも、次の日も早起きしなくてはならないため、家事を済ませたら速やかに就寝。この場所に家はあれど、外の空気や自然、動植物の豊かさに気がつく余裕まではなかったのだという。
けれど、ヒュッテをオープンさせてからはいつも仁山にいることができる。「仕事と暮らしが一致しましたね。地域の神社係という仕事もやらせてもらって、土地の行事に参加できて楽しいですよ」。
ヒュッテでのおかみさんの担当は、接客と、カフェメニュー(スープ・サンド)の調理。七飯町をはじめとする道南では野菜や果物がたくさん生産されているほか、質の良い肉や魚介類も手に入るため、なるべく地元のものでまかなえるようにと意識している。
店内にカフェスペースを設けることは、おかみさんの長年の悲願だった。親方の焼くパンをどうやっておいしく食べてもらうかを考えながら副菜やスープを準備することや、馴染みの客と尽きぬ世間話をすること。自家製のジャムや、大好きな絵本を置くことも。「10年前だったらできなかったこと。その時代ごとに優先すべきことがあって、今やっと状況が整って、できるようになりました」。
一方の親方は、昔も今も、パン職人一筋。5日パンを焼いて、2日休む。そんな暮らしを淡々と続けている。使っている小麦はすべて北海道産。地域の食材の豊かさを発信するという意図もあるが、実は本意は別のところにある。それはエネルギーの最少化。身近な食材を使うことで輸送コストを最低限に抑えることは、余計なエネルギーを使わないための選択のひとつだ。ーつづくー(取材・文/片山静香 写真/菅原正嗣)
■Hütte【ヒュッテ】-1
■Hütte【ヒュッテ】-2
■Hütte【ヒュッテ】-3