2020 Feb
29

Hütte【ヒュッテ】-1

親方とおかみさんが2人で営む、七飯町仁山の小さなパン屋さんのお話。

どんな職業に就いたとしても、重ねるキャリアに見合ったステージというのが存在する。新人は基本的な仕事への姿勢や生活習慣を身に付ける、役職が付いたら部下を育て上げる、もっと出世したら会社の経営のことを考える、というような具合だろうか。会社員であるか個人事業主であるかに関わらず、自分の立ち位置を認識し、あるべき立場として振る舞うことは、誰もが日常生活の中で繰り返し行っていることだ。

「20代はヒストリーから入る。30代は儲けたいと思って頑張る。40代で明確に自分のやりたいことが見えてきて、50代で身のまわりをもっと整えたいと思い始める。60代になったら身の丈を知って、経済に対する見方が変わってくる」。
“親方”こと、木村幹雄さんの言葉だ。
「ヒストリーから入る」というのは、出会った人や憧れの人の生き方(ヒストリー)に大きく影響され、自身の行動を決定していくということ。30代以降は言葉どおり、必死で働く期間を経て、自身を見つめ直すステージに移行していく。
親方は63歳になって、七飯町の自宅横に小さなパン屋“ヒュッテ”を作った。

10年前の親方とおかみさん(妻・由紀枝さん)は、今とはまったく違った働き方をしていた。2008年にクナウマガジンから発行された書籍『パン屋さんに会いに行く』で取材したとき。その時点ですでに20年のキャリアを持つベテランのパン屋で、「こなひき小屋」という地域に根差した店を経営していた。
そのとき話してくれたのは、パン屋を始めた当初の「心地良く生きる」ということに対する覚悟。そして「ちゃんと作って、ちゃんと売る」という、真摯な思い。パン屋になる前、障がい者福祉の現場に携わってきた親方が感じていたのは、人が人として努力をかたむけながら生活できるような職場を作りたいということ。パン職人という職業に就いたのは偶然で、理想の職場づくりこそが目的だった。
楽しいことやうれしいことだけでなく、辛いことや苦しいことも経験しながら育まれていくのが豊かな心。悔しさや苦い思いを乗り越えることで、あたりまえの日常が一層色鮮やかに見えてくる。それはハンディの有無にかかわらず、誰にも等しく当てはまることだと、親方は考えていた。だからこなひき小屋は、始まったときから、「お客さんに喜んでもらえるパンを作る」というあたりまえのことにまっとうに取り組んできた。働きやすさというのは何も、従業員の失敗を先回りして防ぐことではない。喜びだけでなく、悲しみや辛さも。全部を真っ直ぐに受け止めることが、働き手にとって本当の意味での価値のある経験になると信じている。

50代の親方が聞かせてくれた話は、「人を育てる」ことに主眼を置いた話だった。
その後60歳を迎えたとき、親方とおかみさんは信頼できる息子と弟子に店を託した。そして、次なるステージとして、夫婦2人で小さな店を始めることにした。
最初に準備をしていたのは、大沼の近くの土地。自身の手で木を伐って整地して、そこに店を建てるつもりだった。けれどそんな折、親方は体調を崩してしまう。
「伐採して整えたところで、脳梗塞で倒れちゃって。もったいないけど通うのは難しいから、ガレージでやろうってことで」。身体への負担を最小限に抑えるために、七飯町にある自宅横のガレージを改装して店をつくった。ーつづくー(取材・文/片山静香 撮影/菅原正嗣)

■Hütte【ヒュッテ】-1
Hütte【ヒュッテ】-2
Hütte【ヒュッテ】-3

話の主は…

Hütte【ヒュッテ】

七飯町仁山461-6 TEL.090-8909-0711

営業時間/9001800

定 休 日/火・水曜

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.54 winter 2018より

http://www.n-slow.com/books/books-8619

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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