煙筒の横山-3
横山さんは輸入品である断熱二重煙突を屋外で使いつつ、家の中に渡す煙突には自社製のものを組み合わせて使っている。家の中の煙突には、煙突内の熱を放熱して室内を温めるという役割を持たせつつも、煙を屋外に向けてスムーズに誘導するという役割も果たせるようにしなければならない。家ごとに異なる間取り、広さ、天井の高さなどの違いに柔軟に細かく対応できるよう、煙筒のカーブの角度や長さをさまざまに変えてあらかじめ自作しているのだ。市内の業者に頼んで作ってもらっている煙筒に自社で塗装して仕上げたものを、横山さんたちはいつも多種類、工事現場に持参している。
2日目の午前中、昨日と同じ工事現場に顔を出してみると、すでに新品の薪ストーブが室内の窓際に置かれ、横山さんたちはリビングルームで室内煙突の設置に取りかかっていた。薪ストーブ上の煙突と屋外に設置した煙突をどうやってつないでいくか。そこでも、できる限り煙がスムーズに移動できるようにと、横山さんはカーブ部分の角度調節に余念がない。自社製の角度の付いた煙筒をいくつか組み合わせることで、最後の最後には滑らかなカーブが顔を現す。納得のいったところで、つなぎ目が動かないようにビスで留めれば、室内煙突の完成だ。この滑らかで美しいカーブがあるから、薪ストーブの煙は流れるように屋外の煙突へと吸い込まれていくことになる。
横山さんたちの手によって、丁寧に設置された薪ストーブの煙突は、年に一回掃除をすれば十分だという。それも室内の煙突はビスを外し、各煙筒ごとに解体して外に持ち出し、きれいに掃除をして元に戻すだけ。その仕事も横山さんの会社の得意分野のひとつだ。煙突掃除といえば、北海道では昔から月に一度ほど、定期的に行うものだったらしい。手も顔も真っ黒になるなど、あまりに大変な作業だったものだから、どこの家庭でも「煙突掃除は夫婦げんかの種」だったのだとか。それほど大変で、それほど嫌がられる仕事をここまで続けてきた当の横山さんは、何故だかとても面白そうに何度も繰り返し、その話をしてくれた。
横山さんが社長を務める会社は、今年(2016年)で30周年を迎えようとしている。15歳のときに留萌に渡り、ブロック積みの職人として働き始めた横山さんだが、21歳のときに旭川に戻り、時代的に需要の大きかった煙突の世界に足を踏み入れていく。高度経済成長期には建築ラッシュだったこともあり、ブロックや煉瓦を積む技術を身に付けていた横山さんは、1年におよそ250本近い数の煙突を立てていったという。それを続けること、およそ10年間。単純計算でも、横山さんはこの時期、2500本近い煙突を自らの手で施工したことになる。家庭用ストーブの煙突はもちろん、直径80センチ以上もある企業関係の大きな煙突の工事や清掃を頼まれることも多かったらしい。ーつづくー(取材・文/萬年とみ子撮影/高原淳)