煙筒の横山-2
旭川市内の住宅街。午前中にスタートした煙突の工事は、夕方近くになってようやく形になってきた。鉄製のはしご状のものを壁に取り付け、煙突の重さをガッシリとしたはしごで支えながら、軒先の横に煙突を垂直に立ち上げている。軒の出ている住宅の場合、屋外に煙突を取り付けるのは技術的にも難易度が高いらしい。屋内から続く煙突を軒の外側にまで伸ばし、上方に立ち上げるために、今回のようにはしごを設置するのはよくあることだ。重量のある煙突だけに、はしごなどでしっかり支えてやらないと、使っていくうちに煙突が自分の重さで傾いてくることも実際に起こり得る。どんな形状のはしごが必要になるか、家の構造を考慮しながら、あらかじめ自作したものがこうして使われることになる。
その日の夕方、横山さんの事務所で、真冬の外気温がマイナス20度以下に下がることも珍しくない北海道ならではの煙突の構造を知って、再び驚かされることになる。断熱材などによって、気密性の高い住宅が造られている北海道だが、そんな北国、北海道ならではの煙突が存在するというのだ。断熱二重煙突。厚めのステンレスとステンレスの間にスーパーウールなどの断熱材がビッチリ詰められているもので、外気温が低くても煙突の内側の空気が冷やされることのないつくりになっている。氷点下の外気温によって煙突の内側が冷やされると、煙が外に出にくくなってしまうためだ。薪ストーブの中の温かい煙を屋外の冷たい外気に向かって引っ張り上げるのが、煙突の持つ役割の中で最大のものだ。この力強い煙の流れをつくり出すことを「ドラフト(牽引)効果を高める」というらしいが、垂直に立ち上げられた煙突部分に求められる役割の中でも一番重要なものなのだという。
煙突の中で、渦を巻きながら勢いよく上昇し、やがて屋外に排出されていく煙。煙突が果たすべきこのドラフト効果を最大限に発揮するには、「煙突の縦の部分は最低でも4メートルは必要」になってくる。垂直に立ち上げた煙突部分で、気体である煙を引っ張り上げるイメージだ。だから、ある程度の長さが必要になってくるのだと横山さんは話す。そして、煙突以外の要素もドラフト効果に微妙に影響してくると付け加える。天候によって変化する気圧、上昇気流、風の流れなどがその時々、場所の持つ条件などに左右されながら繊細に絡み合い、ドラフト効果を強くしたり、弱くしたりする。横山さんはそれらの条件も計算に入れながら、煙突を立ち上げる場所、高さなどを決めていくのだ。
現在、横山さんの会社で使っている煙突は外国製のものだ。「日本は元々、囲炉裏、こたつ文化だから、薪ストーブについては北緯41度以北のヨーロッパから学ぶことが多い」。200年にも渡って、連綿と受け継がれてきた薪ストーブ文化が息づく欧米の製品に寄せる横山さんの信頼の大きさは、その良さを認められる経験と目を持っているからに他ならない。加えて、それら輸入品を使いこなすには、やはり相応の経験が必要になってくる。たとえば、煙突と煙突のつなぎ方ひとつ取っても、何故そうしなければいけないかを知っているかいないかで、工事法がまったく逆になってしまうこともあるそうだ。つなぎ方を逆にしてしまうことで、水や煤が部屋の中に落ちて来ることだってある。煙突のつなぎ方にも、長い歴史の中で培ってきた考え方があるのだろう。長い間、煙突のプロとして仕事をしてきた横山さんだからこそ理解できることは多いようだ。ーつづくー(取材・文/萬年とみ子撮影/高原淳)