2019 Aug
18

煙筒の横山-1

煙突のプロから若者へと 継承されていくのは職人の心

「煙突は薪ストーブを設置するときに、セットで付いてくるもの」。実のところ、薪ストーブと切っても切り離せない煙突のことを、これまでとても軽く考えていた。「家に薪ストーブを設置するとしたら、どこに頼みますか?」そんな質問に対しても、迷わず「工務店やハウスメーカー」などと即答していたくらいだから、ここに至るまで、煙突についてほとんど何も考えていなかったのは明々白々、隠しようのない事実だ。それだけに、この北海道に「薪ストーブ難民」と言われる人たちが存在することを知ったとき、正直軽いショックを覚えることになった。薪ストーブ用の煙突は、どうやらただ付ければいいというものではないらしいのだ。

煙突の世界にもその道のプロが存在すること。そんな事実を突きつけられたのには、きっと訳があるのだろう。というのも、今回の巻頭特集である薪ストーブ関連の取材中に、自分のことを「筒師」(煙突のプロ)と呼んではばからない横山愛慈さん(61歳)と取材スタッフが、とあるカフェで鉢合わせすることになったからだ。スタッフたちは取材先で偶然にも、煙突のプロとして仕事をしている横山さんと出会えたことに、興奮を隠しきれない様子だった。「薪ストーブの取材中、煙突のプロが…」。スタッフたちの話を聞きながら、どんどん「煙突のプロ」という存在に引き込まれていくのを感じていた。煙突のプロ。マニアックかつ、何と心躍る響きをもっていることだろう。

北海道、旭川市の冬のイメージといえば、いつだって雪景色と共にある。暖冬とはいえ、一面真っ白な雪に包まれた静かな住宅街。間もなく年の瀬を迎えるというのに、横山さんの会社では、年内に済ませたい工事がまだ4軒分も残っているのだという。案内されたのは、そんな薪ストーブの設置現場のひとつだった。雪の舞う中、あの横山さんと2人の若者が玄関横の庭先で煙突を設置するための工事に取りかかっていた。玄関横の壁にはすでに煙突用の丸い穴が開けられている。

すでに建てられている住宅に薪ストーブを入れて煙突を付けるのは、仕事としてはなかなかハードルが高いらしい。新築住宅の場合、最初から相談してもらえればの話ではあるが、薪ストーブを置く場所、煙突を出す場所や形状などについて、建てる前に適切なアドバイスができるから、それほど問題が起こることはないらしい。ところが、すでに建築済みの住宅の場合、その多くは薪ストーブを設置するような造りにはなっていないから、あれやこれやと工夫や技術、さらには経験、知識などが必要となってくる。「100軒あったら、100通りの煙突の付け方がある」とは、横山さんの言葉。要するに、1軒たりとも同じ条件で煙突を付けられる建物はないらしいのだ。

屋根の形状、建物の建っている場所にどんな風が吹くのか、風向き、強さ。そして陽当たり、積雪量、壁の材質…。ときには、屋根に積もった雪が滑り落ちて煙突を押し倒さないようにと、屋根の一部を改修するなどの工事が必要になることもあるという。「煙突は煙の通り道」。薪ストーブからの煙をいかにして屋外にスムーズに導くことができるか。それこそが煙突の役割だから、どこにどのような形状で煙突を付けるかは想像以上に重要なことなのだ。煙突の性能の善し悪しは、設置後に始まる薪ストーブのある暮らしの快適さに、ストレートに関係してくる。「煙突は単なるパイプや配管とは違う」。そこには、適切な煙の通り道を考え、施工できる技術を持つ煙突のプロが求められることになる。

「単なるパイプ」という考え方で薪ストーブ用の煙突を取り付けてしまうと、ときに薪ストーブ難民を生み出してしまうことにもなりかねない。東京、大阪など、都会からの移住者たちの多くが憧れを抱く薪ストーブのある北海道での暮らし。ところが、煙突の設置を「パイプ」感覚で済ませた場合、憧れだった薪ストーブのある暮らしが一転、その後の暮らしの中で大きな重荷になってしまうことにもなりかねない。薪ストーブからの煙を外にスムーズに誘導できず、煙が逆流して部屋の中に充満してしまい、壁などの内装までも煙の煤で汚してしまったなどの事例を、横山さんたちはこれまで幾度となく目にしてきたのだそうだ。煙突の設置の仕方次第では、燃焼が上手くいかないばかりか、最悪の場合、危険な火災にもつながりかねない。楽しみにしていた北海道での冬の暮らしが、ただ辛いだけのものに変わり果て、挙げ句の果てに薪ストーブ難民と化してしまうなんて。旭川近郊にも、そんな薪ストーブ難民が実際に存在するのだという。困り果てた人たちから助けを求められ、煙突の再設置を引き受けることも、横山さんの仕事のひとつになっているらしいのだ。薪ストーブからの煙をどうやって滑らかに、屋外に導くか。それこそが、煙突のプロとしての腕の見せどころだから、当然といえば当然のことなのだろう。ーつづくー(取材・文/萬年とみ子撮影/高原淳)

■煙筒の横山-1
■煙筒の横山-2
煙筒の横山-3
■煙筒の横山-4(2018年12月27日公開予定)

話の主は…

煙筒の横山

旭川市忠和37丁目3-8

TEL.0166-61-1670

http://entotuya.com

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.46 winter 2016より

https://www.n-slow.com/books/books-725

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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