2019 Jun
27

金澤俊哉さんの挑戦-3

きこり屋はいくつの壁を越えられるか

そうして2006年に開業した「きこり屋」は、主にインターネット上で注文を受けている。販売品目はどんころ(一定の長さに切られた丸太)、未乾燥の薪、乾燥済みの薪の3種類。樹種はハンノキ、シラカバ、ニレ、ミズナラなどの広葉樹が混ざる。一般的に、火持ちすると言われるナラが薪として人気があるようだが、金澤さんはあえて一種の樹木だけを販売するようなことはしない。「樹種に差別をつけないというのを基本の売り方にしています。例えば『薪にはナラがいい』という断片的な情報によってナラだけを求めるとどうなるか。極端に資源が偏ってしまいますよね。山に生えている木というのは薪用に植えているわけではないんですよ。だから手に入ったものをそのままの割合で出します」。

 

今のところ、きこり屋のお客さんは街中に住んでいる人がほとんど。主暖房として使用する場合に限らず趣味で導入する人もいて、「木があるから」という理由で薪ストーブを利用していた一昔前の世代とは異なる風潮が訪れているようだ。

金澤さんは、そんな新しい価値観の利用者が多いからこその可能性もあると考えている。「僕の話の仕方によっては、薪1本から今の林業やその周囲の情勢まで、広く意識を向けてもらえると思うんです」。

そして、目下理想とする林業のあり方について金澤さんはこう話す。「山が山だけで回る林業ですね。補助金なしで、山主さんが赤字にならないような。理想論ですけど、例えば山に山菜が実るように整えれば木が育つ間にも稼げるでしょ」。

昨年、ニセコ町に土地を持つ一人の地主さんが金澤さんに賛同し、下草刈りや枝払いを依頼してくれた。もちろん、費用は地主さんが全て負担する形だ。まだ植林するところまで話は進んでいないが、ササを刈ればキノコも採れるようになるし、山はきちんと手入れすれば恵みをもたらしてくれるということを金澤さんは会う度に熱弁しているという。

見合うだけの正当な金額を払って、そこから得られた実りで収入を得る。技術や知識を補い合いながら、人はこの循環の中で対等につながってきたはずなのに、誰か1人が自分だけ楽をしようとか、自分だけ儲かってやろうと考えたことで崩れ始めてしまった。セーターに空いた大きな穴も、最初はほんの小さな綻びだったはずなのだ。金澤さんは地道にひとつずつ、解けた編み目をつないでゆく。

ところで、きこり屋の販売品目に昨年から新たな商品が加わった。ブナの薪である。その北限として知られる黒松内町ならではの商品として特別に樹種を選別した。「町おこしの意味も込めて、ブナにだけ付加価値をつけたんです。他の薪よりも三千円高くして、その分を植林プロジェクトに寄付する。そうすると、ブナが自分で稼いだお金でブナの子どもを育てることになる。ひとつの出口の形ですね」。結局1年で10立方メートル分が売れ、プロジェクトに3万円を寄付した。

しかし残念ながら、購入してくれたお客さんはブナをあえて選んだというよりは、他の薪が売り切れたからやむを得ず、という感触。金澤さんはこの現実に少々肩を落としつつも、試みが次につながることを信じて、これからもさらなる出口を模索し続ける。

「自分がこういう生活をして、外に発信し続けていれば、周りが少しずつ感化されていくと思うんですよ。実際にやってる人がいるってだけでかなり違うでしょ。僕がひとつの指標になればいいと思う。それに、人のやっていないことをやるのが面白いということもある。やっぱり、死ぬときに楽しい人生だったって思いたいからね」。

おそらく今日も、金澤さんは1人西熱郛原野でチェーンソーを鳴り響かせる。視線は足元の原木に縛られ、耳は騒音で塞がれても、内で隆起するその魂はどこまでも行くだろう。それは常識を越えるか、海を越えるか。そして、心を越えるのか。―おしまいー(「スロウvol.20」2009年冬号掲載、写真/高原 淳)

金澤俊哉さんの挑戦-1
金澤俊哉さんの挑戦-2
■金澤俊哉さんの挑戦-3

 

話の主は…

きこり屋

黒松内町字西熱郛原野245-4

TEL.&FAX. 0136-72-3763 

http://kikoriya.web.fc2.com/

*薪に関する詳細はHPをご覧下さい。

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.18 winter 2009より

https://www.n-slow.com/books/books-220

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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