BIKKYアトリエ3モア-1
砂澤ビッキを語るとき、音威子府(おといねっぷ)村の人の表情は実に柔らかだ。ビッキ氏を知る人は、彼との思い出を積極的に語り、ビッキ氏を直接知らない人は、「エコミュージアムおさしまセンター BIKKY(ビッキ)アトリエ3モア」にぜひ行くよう薦めてくれる。
アトリエ3モアは1935年築の筬島(おさしま)小学校を利用した木彫家ビッキ氏の元アトリ エで、彼の没後、2003年に改装され ミュージアムとしてオープン。村内最古の 公共施設だ。ビッキ氏が、当時の音威子府村高校校長の誘いでこの地にやって来たのは、1976年。ちょうど筬島小学校が閉校になった年で、彼がそこに移住して来なければ、取り壊しになる運命だった。しかし、 古い建物以上に、彼が村にもたらしたのは強い求心力だ。
ビッキ氏のアトリエ開きには村内外から 200人が訪れ、繊細にして大胆な彼の作品は多くの人を魅了。お酒も女性も大好きという明るい人柄もあり村民に受け入れられるのも早かったようだ。センタースタッフで、ビッキ氏との親交も深かった河上實(まこと)さんは当時を振り返り「ビッキがやるっていえば、なんでもできる雰囲気があったね」と言う。
ビッキ氏の作品に「オトイネップタワー」というものがある。かつて音威子府駅前にあった14メートルもの巨大なトーテムポールだ。この作品を村で発注する際に、予算を組まなければならなかったのだが、当時の村議会は社会党と反社会党派で大荒れ。常にごたごたしている状態だった。ところがこのオトイネップタワーに関する補正予算案は、満場一致で通過したのだ。「(ビッキ氏を中心に)町の価値観がまとまってひ とつになった。そこがすごいよ」と河上さん。そのオトイネップタワー運送も村民を巻き込んで。運び手として当初60人募集したのだが、倍以上の人が応募してきたという。山車(だし)よろしくみんなでアトリエから駅前まで運び、駅前で除幕式と餅撒きまで 行ったというのだから、ちょっとした祭り 以上の盛り上がりだったに違いない。ーつづくー(「スロウ vol.29」2011年秋号掲載)
■BIKKYアトリエ3モア-1
■BIKKYアトリエ3モア-2(2018年6月12日公開予定)