神田日勝記念美術館-2
そもそも、学芸員とはどんな仕事なのだろう?
美術館には大きく4つの仕事がある。「作品の収集保存」「企画展示」「教育普及」「調査研究」の4つ。学芸員はこれらの専門的業務を扱うための国家資格を有する人をいう。神田日勝記念美術館では学芸員は川岸さんただひとりだ。
そもそもなぜ川岸さんは学芸員になろうと思ったのか?「金沢21世紀美術館での2年間が大きかったですね。美術館が『冬の時代』と言われる中、ここは地方館にも関わらず、当時年間150万人を動員するという驚異的な実績を残しました。現代アートに特化し、自主企画のみでまわしていました。現場の仕事経験を積むうちに、学芸員という仕事が自分にとって現実的にイメージできるものとなっていったのです」。
学芸員の仕事は誰でも同じというわけではない。作品の配置やライティングなどにその人の作品解釈やセンスが現れるという。現代アート専門の金沢21世紀美術館では、さまざまなメディア(媒体)の作品を扱うことになる。見せ方によって作品が格段によく見える。そんな現場を川岸さんは目の当たりにしてきた。
「作家と折り合いをつけながらレイアウトを決めていくというのも重要な仕事です。作家まかせは楽ではあるのですが、意思を尊重するのと言いなりになるのは違うので、お互いにより良い方向を探っていく。コミュニケーション力が大事な仕事だと思います」。
こうした金沢での経験は、神田日勝記念美術館の仕事にも生かされていると川岸さんは言う。ライティングという点では、文化財保護の観点から作品に当てる照度は決められている。しかし、さまざまな企画展を形にし、成功へと導くために川岸さんが果たす役割は大きい。
川岸さんが一番やり甲斐を感じるのは、やはり神田日勝の作品研究なのだそうだ。資料の調査から見えてくるものがあり、「新しい神田日勝像がどんどん構築されていくようだ」と川岸さんは言う。
資料の中心となるのは、30年にわたって日勝の資料を収集してきた菅訓章氏(前館長)のもの。そして、日勝の遺族から提供された資料。これらを横断的に見ていくと、思わぬつながりが発見されていくのだという。
講演の中ではパワーポイントの資料と共にいくつもの新事実が明らかにされていた。雑誌の切り抜きや新聞紙面がそのまま描かれている絵は、多くの人が知るところだが、なかなか気づかないような「発見」も少なくない。
僕が面白いと思ったのは「壁と顔」(1968年)という作品に描かれている木目。これは実際に板の木目を見て描いたものではなく、雑誌に写っている写真を参考にしたもの。日勝のアトリエに貼られていた切り抜きが元になっているのだという。こうした発見を一つひとつつなぎ合わせていくことで、これまでにはなかった新しい神田日勝像が形成されていくことになるのかもしれない。ーつづくー(取材・文・撮影/高原 淳)
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