2021 Mar
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北のアルプ美術館-2

歌い継がれる自然賛歌

「北のアルプ美術館-1」からつづく)しかし、昭和58年、300号を刊行したアルプは「山の芸術誌としての役割を果たし得た」と、その歴史に自ら幕を引いた。最大の理由は書き手の不足。創刊以来の書き手が一人また一人とこの世を去っていくなか、後を継ぐ若い作家が育ってこなかった背景には高度経済成長という時代性もあった。文明の名の下に自然破壊が進み、物質的な豊かさの裏で失われていく自然への礼賛、憧れ。

「存続の為にスタイルを変え、時代に迎合した情報や広告を載せたなら、一貫していた志が失われる。終刊はある意味止むを得なかった」と、大事なものを失った悲しい記憶にしばし沈み込んだ後で、でも、と山崎さんは続けた。「人生の大半を共にし、支えてくれた存在を、何もせずに時代の波に埋もれさせるわけにはいかなかった。色々考えた末に、美術館という形での保存を決めたんです」。

しかし、アルプ自体も作家の直筆原稿も、必要とする資料は全て財産、もしくは遺産である。そう簡単には集まらず、そもそもアルプの名前を冠すること自体が問題視されたそうだ。そこで山崎さんは、アルプへの思いの丈を綴った手紙を串田氏へ宛てた。「私自身の売名行為ではなく、純粋にアルプの精神を残したいのです。物販もせず、入館料もいただきません」。地域の文化振興をも視野に入れた、私財を投じての事業計画を細微に渡り記した手紙は、串田氏の心を動かし、のちに膨大な量の資料や原稿が山崎さんの元に届いた。「串田先生が信用する人なら」と初めは半信半疑だった関係者からも続々と資料が寄せられるようになり、最終的には5万点を超えたという。

ロケーションは「アルプと共に僕を育ててくれた土地で」と地元に絞り、幾つかの候補の中から、三井農林斜里事業所が社員寮に使っていた洋館に決めた。思い描いていた自然と共生する建物のイメージに合っていたし、バター製造など工場の操業を通して地域の酪農経済を潤し、斜里町発展の礎となった歴史も残せたら、という思いもあった。より自然に溶け込むようにと、ピンクのモルタルだった外壁は板を貼り色付けし、庭には元の樹木に加え、自らの手で180本もの白樺を植えた。

奇しくもアルプの名付け親である尾崎喜八の生誕百年目にあたる平成4年、9年にも及ぶ準備期間を経て、北のアルプ美術館が開館を迎えた。アルプ作家陣から寄せられた祝福の言葉たちは、今も美術館の道標であると同時に、山崎さんが初心に帰るための教えとなっていると言う。「その言葉を胸に、作品を通していかに作家のものの考え方や、自然に寄り添った生き方を伝えられるかを突き詰めてきたし、アルプの墓場にだけはしないように、といつも考えています」。昨年、山崎さんは事務機販売会社の経営からは引退した。「この複雑な時代に、アルプを普遍的な価値観として語り継ぐために、今年からまた新たなスタートですね」。その口調からは、心ゆくまでアルプと向き合える喜びが、静かに伝わってきた。

アルプの終刊号にて串田氏は、自然破壊と機械文明がもたらす人間の心のゆがみに対して、文学や芸術がいかに無力であったかを、痛恨の念を込めて語った。そして、9年の時を経て迎えた北のアルプ美術館の開館に際しては、「そして北海道の斜里の、この美術館のあるところから、病める地球が見事に癒されて行く爽かな緑が、先ず人々の心に蘇り、ひろがって行くことを願っている」との言葉を寄せている。一度は失われたアルプが志した自然賛歌の精神を、美術館の存在を通して人々が心に取り戻すように。山崎さん曰く、このメッセージこそ、北のアルプ美術館の存在理由。そして、もしかすると自身の生きる理由をも重ね合わせているのかもしれない。最近はアルプの読者ばかりではなく、旅の途中で立ち寄ったという若い世代の訪問客も多いという。アルプの精神を引き継ぎ、新しい世代へ伝えたい。山崎さんの願いは、確かに実を結び始めている。ーおしまいー(「スロウ No.14」2008年冬号掲載 写真/菅原正嗣)


北のアルプ美術館-1
■北のアルプ美術館-2

話の主は…

北のアルプ美術館

斜里町朝日町11-2 アルプ通り

TEL.0152-23-4000

open 6〜10月/ 10001700

11〜5月/ 10001600

closed 月・火曜日、12月下旬〜2月末頃(但し事前の電話連絡により案内可能)

http://www.alp-museum.org/

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.14 winter 2008より

http://www.n-slow.com/books/books-226

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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