共立日和な休日-3
「少しでも自分たちのカフェのことを知ってもらえたら」。そんな風にして始まったイベント参加だったが、広い北海道で暮らし始めたことで自然に湧き上がってきた「いろんなところに行ってみたい」という募る思いはそのまま、「移動販売」のようなイベント形態につながっていく。旅するカフェのネーミングは、そんなところから名づけられたのだろうか。回を重ねるにつれ、次第に、「この場所で(イベントを)開いてほしい」と声がかかるようになっていく。それらの多くは、「仲のいい人たち」から。この場所だったら、気に入ってくれるかもしれないと、主催者側の気持ちをくみ取るようにして、声をかけてくれるのだ。
「自分たちがやりたいと思える場所。その上で、会場側の人も一緒に動いてくれるところ」。普段暮らしているところとイベント開催の場所が離れているだけに、会場側の協力が得られなければ、イベント開催は難しい。場所の魅力と人の協力があって続いてきた旅するカフェだった。場所が素敵。しかも、一緒にやっていて楽しいと感じられる人たちと同じ空間で過ごす。贅沢でいて、かつ心落ち着く時間を過ごせることが、中野さんたちがここまでイベントを続けてきた理由のひとつなのだろう。旅するカフェは、今ではさらに規模を小さくし、例えば「okunoheya」など、イベント名も変えたりしながら続けられている。開催する側にとって、イベントが特別な催しであるとしたなら、その日を待ちながら、日々を頑張るという生き方になってしまうかもしれない。「それは嫌だな」と、中野夫妻は感じている。イベント以外の日も、意味のある過ごし方をしながら生きていきたい。義務感や馴れ合いで続けるようになれば、やがて心が疲弊してしまうだろう。「やりたくなければやめればいい」。小さなイベント。そこに求めるのはどこまでも心地良さ。一緒にやっていて気持ちのいい人たちと、やりたいと思える場所で。やりたいと思う、まさにそのときに。そんな思いの詰まった小さなイベントのひとつが、下川町で開催された共立日和な休日だったのだ。
あの秋の日、笑顔で迎えてくれた中野夫妻。そして水戸さん、堂高夫妻。歴史を刻んできた古い木造家屋が心地良さの一端を担いながら、彼らの背後から静かに語りかけてきた。人を惹きつける場を形づくるものたちのこと。人を心地良さに導いてくれる心のこと。ーおしまいー(取材・文/萬年とみ子 撮影/高原 淳)