ひとりCSAショップ-1
ミリケン恵子さんを取材したときのノートを見返すと、バラバラの単語たちの中から、ある種のメッセージが伝わってくるようでした。「市場は家族のような安心できる存在」、「赤井川にあって小樽にないもの=交換条件」、「求めているけどどこにあるかわからない」、「食べておいしかったから、また来てくれる」、「地域で地域を支えられないかな」、「近くの人とお話する」、「みんなが知り合いで笑っていられる世界」…。同時に、言葉を探すように話す、キラキラと幸せそうな恵子さんの姿も思い出されます。話を伺った妙見市場は寒々としていたのに。手足は冷たくても心はホッと温かくなるような、そんな気持ちになれたのです。
ミリケン恵子さん。アメリカ人と結婚し、「自然のある場所で子育てをしたい」という理由で、小樽市から山側へ40分ほどの場所にある、赤井川という小さな村に12年前から住んでいます。夫と4人の子どもたち、そして犬にヤギにニワトリ。それが恵子さんの今の家族です。
「畑作業をしたり、ヤギにエサをあげたりで、暮らしていくって大変です」。大変です、と言いながら、その口調はどこまでも楽しそう。若い頃は、むしろ一ヵ所にとどまるのが苦手で、自分の身になることには、労力を惜しまずどこへでも。フットワークが軽いといえば聞こえがいいですが、「私、何もしてなかったんだって気づいたんです」と、恵子さん。好奇心旺盛でどこへでも出て行くのはいいのですが、気づけば足元の暮らしがスカスカ。自分の暮らしを守る術を何ひとつ持ち合わせていないことに、ある日恵子さんは気づきます。だから、出かける時にはヤギにエサをあげるとか、天候によって左右される農作業の備えをするとか、「暮らしと向き合えている」実感がある今が、とても幸せなのだそう。
2012年2月、恵子さんはミニコミ紙「おむすび」の発行を始めました。赤井川は、周囲を田んぼか畑に囲まれている地域です。隣の畑に作物が実っているのを眺めながら、自分たちはガソリン代をかけて、時間をかけて、スーパーに買い物に行っている。そのことに大きな矛盾を感じていました。近所で作っている立派な野菜が遠くのスーパーに運ばれて行く。地域に何も残らないことへの疑問。それは、「作る場所」がすぐそばにある、北海道に来たからこそ芽生えた気持ちでした。「都会にいる時は、地域のことなんて考えたことがなかった。手元にないから買う。でも、ここにはすぐ近くに育てている人がいる。だから、地域で地域を支えるような、小さな循環ができればいいんじゃないかと思ったんです」。
持ち前の行動力と、それまでの10年で築き上げられてきた人脈があったことも、始めるのにいいタイミングだったのかもしれません。住む場所としての赤井川と商業地である小樽。その間を利用して商売ができるんじゃないか。赤井川の農家が作る野菜や加工品をミニバンに乗せて、あるいは小樽のものを赤井川へ。その道中にある店に寄ってくることもできる、昔ながらの行商スタイルです。ーつづくー(取材・文/鎌田暁子)
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