小さな町の小さなマルシェ-3
「ある年は、小麦や野菜を作る農家、チーズを造る酪農家、パン屋さん、薪と炭を用意してくれる人が揃っていたから、薪窯でピザ作りをしてみたり。一人じゃできないけど、それぞれのできることを集めたら何かができる。それが、ひとつの村みたいだなあと思って」と茉耶さんは笑う。
絵を描くのが得意な農家にチラシのイラストを描いてもらったり、農業の道60年のベテランからは、イベント当日に行う餅つきのコツや、大豆からきな粉を作る方法を手ほどきしてもらったり、それぞれ得意なことで活躍してもらっている。「そうやってお互いハッピーになれたら良い」。茉耶さんの言葉は、人と人が寄り添って生きていくことは、思っていたよりずっとシンプルなのだと教えてくれる。
暮らしていると、つい足りないものに目がいきがちになる。だけど、そこに文句を言っていても始まらない。足りなくて、必要なものは、みんなで作れば良い。そうやって心地良い暮らしを作って、未来の子どもたちに引き継いでいく。良いもの、大切なものを受け継ぐ。吉澤さん夫妻の暮らしは、新しいようで、かつてはあたりまえだった生き方なのだろう。
大きな町にいると、便利さや忙しさに紛れて、見落としそうになってしまうが、誰もが暮らしを作っていく力を持っている。自然や人との距離が遠くても、必ずどこかでつながっている。一人ひとりが、そのことを忘れずに自分たちの暮らしと向き合っていけたら、たくさんのことを、未来に引き継いでいけるはずだ。
吉澤さん夫妻の活動の輪は、島牧村の地にしっかりと根を張って、これからも広がっていく。子どもたちが伸び伸びと学べる未来を描きながら。ーおしまいー(取材・文/立田栞那 写真・東藤亮佑)
■小さな町の小さなマルシェ-1
■小さな町の小さなマルシェ-2
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