小さな町の小さなマルシェ-2
会場は「さくらの咲くところ」。吉澤さん夫妻がユースホステルを拠点としながら「自然と共にある暮らし」を伝えていくための場所であり、2人が活動する時に使う屋号のようなものでもある。「島牧村とせたな町の堺にある狩場山には、アイヌ語で『桜の多い所』という意味があるらしくて。名前はそこから付けました」と茉耶さんが話してくれた。
10月の秋晴れの日、会場は地元からの来場者と、20組ほどの出展者で賑わっていた。室内で食事を提供するグループの他、外には自然栽培の野菜や卵、焼き菓子などの食べ物や、手づくり雑貨などの店が輪になって並ぶ。たくさんのモノが並び、売り買いする人が交流する。出展者どうしがブースを行き来し、子どもたちが遊び、思い思いの時間を過ごす人々には笑顔が浮かぶ。
会場には穏やかで、心地良い時間が流れる。「本当はたくさん人が集まる場所って苦手なの。それでもこうして参加しちゃうのは、ここに来る人たちがみんな温かくて素敵だからだと思う」。ある出展者の言葉に、思わず大きく頷いた。
このイベントが始まったきっかけは、俊輔さんと4人の作家仲間が2011年の秋に開いた展示会だった。展示会を終え、来年の開催を考えたとき、「島牧村で、音楽や食事も楽しめるような展示会をやってみよう」という話になった。
その年は東日本大震災が起きた年。自分たちの暮らしをどうしていくべきかをより深く考えていた俊輔さんたちにとって、「これからの暮らし」がひとつのテーマになっていったことは、自然な流れだったという。
こうして2012年の秋、最初の展示会に参加した作家や、吉澤さん夫妻とつながりのあった農家、自然と共にある暮らしを求める仲間たちが集まり、1回目の「小さな町の小さなマルシェ」が開催された。会場の音響に使う電力は、本誌32号で紹介した早川寿保さんの太陽光発電機で賄った。
その頃、江差町の道南地区野生生物室でヒグマの調査を手伝っていた茉耶さんは、俊輔さんに誘われてイベントの運営に関わるように。その後2人は結婚し、現在は茉耶さんも中心となって、年に1度、このイベントを続けている。ーつづくー(取材・文/立田栞那 写真・東藤亮佑)
■小さな町の小さなマルシェ-1
■小さな町の小さなマルシェ-2
■小さな町の小さなマルシェ-3