2019 Mar
21

家づくりは暮らしづくり-2

お施主さんと設計士さんのステキな関係

大島夫妻のアイディアを集約し、それを空間に落とし込んだのは、設計士の羽渕さんと山田さん。3年前、東京にかめ設計室を立ち上げる以前は、共に帯広の設計事務所で働いていました。実は、繁樹さんと羽渕さんは十数年来の友人。気になるその出会いは?と尋ねると、「それが酔っ払ってて、よく覚えてないんだよなぁ」と首をかしげるばかり。そんな印象の薄い出会いにも関わらず、その後も時々連絡を取り合っていた二人の男の友情に、「家」に対する双方の思いが具体的に絡んでくるのは、それからかなり後のことでした。

「え?あれ、あるの?」と驚く羽渕さんを他所に、繁樹さんが取り出して見せてくれたのが、セロハンテープもついたままにすっかり色褪せた一枚の包装紙。これが大島さんの家づくりの原点なのだそうです。紙の隅っこには、そぞろな文字で「家はつくるもの大島繁樹歳」と書いてありました。

繁樹さんが、その時は既に東京に移り住んでいた羽渕さんと、数年ぶりに再会の機会を得た場所は、都内の焼き鳥屋さんでした。土産物を包んでいた紙に二人で書き込んだ断片的な数字と、何度もなぞった間取り図。そこに綴られた文字にならない思いが、その夜の二人の熱い口ぶりを想像させます。


「この時が初めて、自分の住む家について考えたときかもしれない」と振り返る繁樹さんは、その日から今までずーっと、この一枚の古びた包装紙を家宝のように大切に保管してきました。だから、それからまた数年が経って、美奈子さんと結婚し、宗高くんを授かり、これから増える未来の家族や両親の老後に思いを巡らせて新しい家を建てようと決めたとき、その設計を羽渕さんに依頼したのは、ごく自然な流れだったようです。

ところで今回、かめ設計室の仕事の進め方はちょっと変わっていました。遠方だったことと、初めての土地だったこともあり、立案から施工が完了するまでの1年3か月の間に20数回も標茶を訪問し、その度に大島宅に宿泊。一度の滞在期間を5日としても、計100日以上を小さな町営住宅で過ごしたことになります。

同じ屋根の下で寝起きし、同じものを食べ、生活に入り込むということは、お施主さんの暮らし方を身体で感じるということ。そこから知り得るものは、見え隠れする暮らしの「センス」。やはりそれは、自分の家で寛ぐお施主さんの生活からしか見えてこないし、その中に身を置くことでしかわからないものです。「いちいち全て意識して見るわけじゃないけど、僕の中に残る感じ。イメージや雰囲気として。例えば、大島くんは電気をなかなか点けないんですよ。夕方になって日が暮れると、その暗さが家の中にも入ってくる。具体的に(設計に)直結するわけじゃないけど、そういう人たちなんだなって(羽渕さん)」。

「お客さんっていうより、合宿みたいだよね」と美奈子さんが笑うように、羽渕さんと山田さんは、すっかり大島家の人やモノの流れに馴染んでいました。それは例えば、小さなちゃぶ台を囲む朝食の席が決まっていたり、食器をさげる手がごく自然に動くくらいに。

でもだからこそ、特に現在の住まいを基盤として新居を考えた今回の場合、大島さんがイメージで「阿」と伝えれば、かめ設計室が図面で「吽」と答えられるような、繊細な意思の疎通が可能になったのです。ーつづくー(「スロウvol.15」2009年夏号掲載 写真/高原淳)

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家づくりは暮らしづくり-4

話の主は…

かめ設計室

http://kamedesign.net

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.15 early summer 2008より

https://www.n-slow.com/books/books-225

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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