2019 Feb
23

蜜鶴本舗のハチミツ「蜜鶴」-3

釧路の冬を越えて届く、ティースプーン1杯の恵み

1年目の冬。巣箱をさらに箱に入れて隙間に藁を入れ、発泡スチロールで周りを囲んだ。最も寒い1月、2月までは箱の中から確かに羽音が聞こえていた。しかし、3月になった頃にぴたりと止んでしまった。「あれ? って思って確認したら、2箱とも全滅していました」。ミツバチたちに申し訳ないことをしたと、土橋さんは表情を曇らせる。「原因はいろいろあると思いますが、多分湿度が高くなりすぎたんでしょう。適度な換気も必要なんだと学びました」。

2年目の冬。東北では巣箱を外に置いたまま、雪に埋もれさせて越冬させることから発想を得た土橋さん。越冬用の小屋を用意して巣箱を入れ、温度が0℃に保たれるよう調節するという方法に挑戦した。

11月から始めて、約5ヵ月間。温度を保つためには頻繁に小屋を確認するわけにもいかず、毎日毎日心配していたという。結果、12 箱のうち3箱は全滅したが、残りの9箱は越冬に成功した。

温度の維持が重要な条件のひとつになるのではないか。3年目の冬、土橋さんは「ハチたちに少し楽をさせてあげようと思って」、温度を5度に引き上げた。ところが、30箱のうち半数が全滅してしまった。暖かすぎて、ミツバチたちが必要以上に動いてしまい、エネルギーを消費してしまったためではないか。土橋さんはそう分析する。

そして4年目、2013年の冬。これまでの教訓から得た情報を総合して、2年目同様に0度で越冬させた。取材にお邪魔した2014年3月下旬の段階で、「死んでいるハチが、これまでよりずっと少ないです」とのこと。「4年目にして、ようやく手ごたえが出てきた感じですね」と、嬉しそうに話してくれた。失敗を繰り返しながら少しずつ前進してきた、その努力にミツバチたちが応えてくれたようにも思える。釧路の冬を乗り越えたミツバチたちは、それでもやはり個体数が減っている。春からは、夏に向けていかに早く数を回復させるかが勝負となる。

雪が解け、暖かくなる3月下旬から4月上旬、土橋さんはミツバチたちの体力回復のため、砂糖水の給餌を始める。8月中旬、本格的にミツバチたちによる花の蜜の採集が始まる前に、一度ハチミツを搾る。砂糖水でできたハチミツと花の蜜からできたハチミツが混ざってしまうのを防ぐためだ。

ハチミツの原料は花の蜜。蜜を集めるのは働き蜂の仕事だ。なぜミツバチが蜜を集めるのかというと、自分たちの食料にするため。蜜嚢という体内の袋に花の蜜を溜めて巣に戻り、巣で待つ若い働き蜂に受け渡す。蜜を受け取ったミツバチは巣の中の部屋に蜜を貯蔵するのだ。

蜜鶴本舗のミツバチたちが集めるのは、夏の終わりから秋にかけて釧路湿原に咲く花々の蜜。湿原に隣接する畑に敷地を借り、期間中ずっと巣箱をそこに置いておく。50箱もあれば移動もひと苦労。専用のトラックで運ぶそうだが、「雑に扱うと機嫌が悪くなるんですよ。天気が悪い日もそうですね」と土橋さん。「こちらがゆっくりと大切に扱ってあげれば、基本的には刺したりしません」。もちろん刺されることも皆無ではないが、「攻撃してくるのは、僕らの扱いが悪いってことですからね」と微笑む。巣箱によってもミツバチの性格は異なるそうで、土橋さんはそれを「家庭の事情が違う」と表現していた。そこもまた面白い。とはいえ、ミツバチたちに攻撃されるのは気の滅入ること。「こんなに手をかけて育てている

のに、寂しいなあって思っちゃうんですよね」。女王蜂のことを「ママ」と呼ぶ土橋さんだが、まるで自分自身、ミツバチたちのパパのような心境でいるようだ。

貯蔵された蜜の水分が80%程度蒸発して熟成され、糖度が十分に高まればハチミツを搾る(採蜜)段階に移る。放っておけば熟成が進むのかといえば、そうではない。なんと、「夜の間、ミツバチが羽ばたいて風を送ることで水分を飛ばすんですよ」とのこと。

秋の終わりになると、いよいよ採蜜だ。大規模生産をしている養蜂家は年に何度も採蜜するそうだが、ミツバチが蜜を集める期間が限られる蜜鶴本舗では年に一度だけしか搾れない。六角形の部屋に貯めたハチミツが完全に熟成すると、部屋の一つひとつに蓋のような白い膜が張る。その状態のものが、巣箱に設置されている板のほぼ3分の2に広がっていれば、採蜜をしても良いという目安だ。

白い膜をナイフで切り落として遠心分離器にかけた後、丁寧に濾過していく。時間をかけて巣の中でじっくりと熟成されたハチミツは、分離させるのにもかなりの力を要するのだそうだ。「一匹の働き蜂が一生のうちに集めることのできる花の蜜の量は、ティースプーン1杯程度しかないんですよ」。その言葉を聞いて、あまりの少なさに愕然としてしまった。「ひと瓶のハチミツを、何匹のハチが集めているのか。そう考えると、すごく健気に思えてね」。土橋さんはそう言って琥珀色のハチミツが詰まった小さな瓶に視線を落とす。

それほどまでに貴重なハチミツを手間隙かけて商品化し、「蜜鶴」という名前で出荷できるまでになったのは、2012年のこと。1種類の花の蜜だけで作る単花蜜のほうが高級なイメージがあり、対して様々な花の蜜からできる「蜜鶴」のようなハチミツは百花蜜、あるいは雑蜜と呼ばれる。しかし、「こだわる必要はないと思っています。だって、こんなにおいしいんだから、もったいないじゃないですか」。

儚くすら思えるミツバチたちの営み。そこに寄り添う、土橋さんの献身的な姿勢。今年の秋はどんな香りの、どんな味のハチミツが採れることだろうか。ーおしまいー(取材・文/家入明日美)

蜜鶴本舗のハチミツ「蜜鶴」-1
蜜鶴本舗のハチミツ「蜜鶴」-2
■蜜鶴本舗のハチミツ「蜜鶴」-3

話の主は…

蜜鶴本舗

千倉工業株式会社 養蜂部

釧路市釧路町若葉3丁目28

TEL.0800-800-1832

http://www.mitsuru-honpo.co.jp

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.39 Autumn 2014より

https://www.n-slow.com/books/books-150

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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