2019 Aug
18

蜜鶴本舗のハチミツ「蜜鶴」-1

釧路の冬を越えて届く、ティースプーン1杯の恵み

そのハチミツを初めて口にしたときの驚き。自然な甘さの中にある、ほんの少しの酸味と鼻に抜けるような爽やかな風味。味わいは濃厚なのに喉に絡むようなえぐみもなく、後味はとてもアッサリとしていた。ただひたすらに「甘い」印象しかなく、どちらかといえば苦手に思っていたハチミツ。思えば、初めての経験かもしれない。ハチミツを「おいしい」と感じたのは。

後味も爽やかなハチミツを作っているのは、釧路にある千倉工業株式会社養蜂部、蜜鶴本舗。千倉工業は代表の土橋賢一さんが27歳のときに興した会社だ。作業着姿も様になる、ちょっと強面の土橋さん。甘く、トロリとしたハチミツのイメージからは一見縁遠くも感じられる土橋さんが養蜂を始めることとなったきっかけは、千葉県の同業者が趣味で飼育していたセイヨウミツバチを見せてもらったことだった。

「可愛いなって、思ったんですよね」。多大な偏見だが、とても「可愛い」なんて言葉を使いそうもない人から発された言葉に、内心とても驚いた。けれど、そう話してくれたときの土橋さんの優しく慈しみに満ちた眼差しもまた、深く印象に残っている。ああ、この人は本当にミツバチが好きなんだな、と違和感なく思うことができたのだ。

その同業者からミツバチの飼育を奨められたが、養蜂の知識もないからと一旦は保留に。釧路に戻って社員に相談するが、人を刺すイメージが強いからか、ミツバチを飼うことに猛反対されてしまう。しかし土橋さんは「どうしても我慢できなくてね。その2週間後には社員に黙ってミツバチを2箱取り寄せたんです」。社員にはさぞ驚かれたことと想像するが、飼い始めてしまったからにはやるしかない。土橋さんは様々な文献を読み、インターネットで検索するなどして養蜂の知識を学んでいった。

養蜂の歴史は古く、古代エジプト文明の壁画にも描かれているほど。日本においても、江戸時代頃から巣箱を使用した養蜂が行われていたようだ。それだけ長い間行われてきたことであれば、もはや養蜂のノウハウは調べ尽くされ、明確なシステムが出来上がっているものと思いがちだ。しかし、実際は「ほとんど我流」なのだと土橋さん。基本となる指標はありつつも、「10人いたら、10通りのやり方があるんです」。

特に地理、気候、その年の天候など、土地ごとに異なる要因がミツバチたちに与える影響は、私たちが思う以上にとても大きいのだという。そのため、本に書かれている通りにやっても、うまくいくとは限らない。何と言っても相手は生き物。決してハチミツを作る機械などではないのだから、当然といえば当然だろう。釧路で養蜂をするには、どんな方法が適しているのか。土橋さんは試行錯誤を重ねていく。ーつづくー(取材・文/家入明日美)

■蜜鶴本舗のハチミツ「蜜鶴」-1
蜜鶴本舗のハチミツ「蜜鶴」-2
蜜鶴本舗のハチミツ「蜜鶴」-3

話の主は…

蜜鶴本舗

千倉工業株式会社 養蜂部

釧路市釧路町若葉3丁目28

TEL.0800-800-1832

http://www.mitsuru-honpo.co.jp

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.39 Autumn 2014より

https://www.n-slow.com/books/books-150

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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