SORRY KOUBOU-1
およそ半年前、まだ寒い時季に下川町を訪れた時、「今、小屋を建てているの」と聞いていたあの木造の建物。冬から春にかけて、大工さんを手伝って、山田さんと小松さんも身体を動かしながら完成させたという小屋には、「こそっと、ハット」という個性的な名が付けられ、すでに営業を「こそっと」開始していた。ふたりの手から生まれた製品を並べ、必要とする人に訪れてもらうための小屋。山田さんと小松さんがハーブを原材料に、チンキや石けん、リップバームなどを製造している工房の道を挟んで反対側。日よけテントが張り出した木製デッキと小屋まで続く枕木の道がアクセントになっている。小屋の前の四角い草地には、ブルーの矢車草が長い茎を風にユラユラと委ねながら涼しげに咲いている。背後には林が控えていて、時どき、鹿も遊びにやってくるという。西側に設けられた正方形の小さな窓からは剣山が見え、絵のように美しい夕日も楽しめる。緑豊かな夏はもちろん、真っ白な雪に覆われた冬景色も美しいのだと、窓を見ながら、ふたりは声を揃える。
オープンしたのは夏を迎えたばかりの6月。まだ、ほんのひと月しか経っていないけれど、ふたりにとってこの小屋は、自分たちが手づくりした製品を、必要としている人の元へどんなやり方で届けたいか、どんな製品づくりをしたいか、つまりはどんな風に生きていきたいかを具現化したものに他ならない。4年前に下川町を生きる場として選んだあの時から、いや移住してくるかなり以前、あの東日本大震災以来、仕事をしながらもずっとずっと考え続けてきたこと。それを具体的なイメージとして思い描いたときに浮かんできたひとつの形。考えていること、やりたいことを細部にわたって話し合ってきたことが、通過点ではあるかもしれないけれど、今、ここにこうして小さな実を結んだことになる。
小屋の奥の壁に設えた棚には、ソーリー工房の製品が整然と並べられている。向かって右から順に、カモミールなどのハーブティー、カモミールやカレンデュラなどのチンキ(ハーブの有効成分をアルコールで抽出したもの。ミックスして化粧水を作る材料でもある)、カモミールや蜂蜜の石けん、カレンデュラ・カモミールのリップバーム。どの製品にもふたりの手で育てたハーブが使われている。この場所を訪れてくれる人の話に耳を傾けながら、その人が一番必要としている製品を選んでもらうこと。そして実際に使ってもらうこと。二度、三度と、繰り返し訪れてもらうことで、より必要としているものに出合ってもらえたなら…。「こんなものがほしいの」「こんなことで悩んでいるの」と、声を届けてもらえたら…。そんな風にしながら、直接訪れてくれる人の役に立てたらと願うから、あえて対面販売の形を選んだふたりがいる。
そう、たとえば『魔女の宅急便』の、主人公キキのお母さんの店みたいなイメージだ。肌荒れ、湿疹、キズ、アレルギーなどに悩む人がいたら、その人に向けて、工房でハーブを材料に製品づくり。出来上がったら、小さな小屋、「こそっと、ハット」で、「ホラ、できたよ。使ってみてね」と、顔を見て話をしながら手渡していく。―つづくー(取材・文/萬年とみ子 撮影/高原 淳)
■SORRY KOUBOU-1
■SORRY KOUBOU-2
■SORRY KOUBOU-3
■SORRY KOUBOU-4(2018年10月31日公開予定)
■SORRY KOUBOU-5(2018年11月1日公開予定)