MEON農苑-2
26年間も続けてきた店を閉めて、この地に移って来たのは、自然な流れだったようだ。「ヨーロッパの片田舎の暮らし」が出発点だったから、緑に囲まれた場所に行き着くのは必然だった。「MEON」という名は、イギリスにあるミオン川に由来している。近さんの心の原風景に流れる川なのだろう。
MEON農苑には、近さんが7年かけて造りあげた庭がある。中央には水路が流れ、その両脇には北海道の風土に合った草花や、ブルーベリーやカランツ、ラズベリーなどのたくさんの果樹が植えられている。訪れた日には、それらの実がたわわに実っていた。元々自生していたという大きなトドマツとアカエゾマツが農苑を囲うように直立し、中でも、庭の正面に聳えるアカエゾマツは、農苑のシンボルツリーだ。真っ直ぐと伸びるその姿が、やはり真っ直ぐに伸びる水路に映し出されるように設計されている。
庭木や建築など専門的な部分に関しては、知識を持つ友人、知人のアドバイスを受けながら進められ、整地や基礎工事は業者が手がけたが、その他ほとんどの部分は、友人らの手を借りながら近さんがプロデュースし、その手で造りあげた。これほどにバランス良く整えられた庭。思わずどこかで技術を得たのかと尋ねると、「インテリアとエクステリアは一緒だと思っている」との答えだった(エクステリアとは、インテリアが住まいの内部に限定されるのに対して外部を示す)。
つまり、近さんに言わせれば、庭造りは暮らしづくりの一部なのだそうだ。インテリアの延長に庭があり、「庭が素敵な人は、インテリアも素敵」であるはず。昨今は、庭ばかりが独立した存在としてスポットを浴びているけれど、本来、庭は暮らしにまつわる要素の一つ。だから、暮らし全般を発信している近さんにとっては、ガーデニングという言葉の概念すらないのである。そんな考えの元、「私の部屋」でもバラを中心に構成された庭造りに力を入れ、住まいの内部だけではなく外部にも、その感性を惜しみなく注入してきた。
ヨーロッパの文化や風景に憧れ、そこにゴールを置いてきた近さん。場所は変われども、このMEON農苑でもやはり同じように「ヨーロッパの片田舎の暮らし」を提案していくつもりだったそうだ。ところが、かつてあれほど力を入れたバラは農苑には一輪も咲いていない。ーつづくー(「スロウ vol.29」2011年秋号掲載)