2019 May
24

野の花で彩るとっておきの食卓

白いお皿に花が咲きました。

ついさっき道端で摘んできたばかりの、まだ朝露に濡れたままの花をキッチンに並べて、佐知子さんはとっても楽しそうにレシピを考えます。「これは香りが強いから、パスタにしてもいいんじゃないかしら」と思いつけば、エゾカンゾウのパスタが出来上がり、「かわいいヒメジョオンには緑色が似合うかも」と閃けば、ちょうど冷蔵庫に入っていた頂き物のメロンをくり抜いてみたり。普段は雑草として足蹴にしているような植物でさえ、佐知子さんの手に掛かると、みるみるうちに魅力的な一皿に変身してゆくのです。

花料理の必須条件は、その鮮やかな色やかわいい形をなるべくそのままで調理すること。茎でも葉でも根でもなく、花の部分を利用するのだから、その愛らしい姿を生かさない手はありません。お花好きの佐知子さんとしても、そこは譲れないところ。とは言っても、生のまま利用するだけでは、つまらない。何より、香り高いエゾカンゾウやハマナス、蜜の甘いアカツメクサなどはいいとしても、正直なところ、花びらには単純に「味」としての魅力はさほどありません。それでも、食材としての花たちの長所を最大限に引き出す一品を作り出せるのは、佐知子さんが料理のプロであること以前に、自他共に認めるお花好きだからでしょう。

これからの季節、ハートンツリーのテーブルには、いつも何かしらの花が飾られます。その辺にたくさん生えているアカツメクサだって、立派に1つの花瓶を占領。雑草でさえ、佐知子さんにとっては愛おしい存在です。「夏になったら道路際の草刈りが行なわれるんだけど、あんなにきれいなスカシユリも、みーんな草と一緒に刈られちゃうのよ。だから私、それを拾って歩くの」。そういいながら笑う佐知子さんの夢は、庭を花でいっぱいにすること。「でも、なかなかきれいにできないのよね。雑草を刈って花の苗を植えてもいいんだけど、雑草の花にも種があるかと思うと、かわいそうで。例えば何かの蕾が1本ヒョロっと出ていたら、そこはもう掘り起こせないのよ〜」。どんな花でも愛してしまう、お花好き故の悩みもあるようです。

佐知子さんがお店で出すパスタやパンにも、タンポポなどの花が入っています。あまり花を食べる習慣のない私たちは、お皿の端っこに添えられている小さな花でさえ、「え、食べられるの?」と反射的に思ってしまいがち。でも、「鑑賞する」「香りを嗅ぐ」「手で触れる」「知識として知る」などの花との関わり方の中で、「食べる」というのは、その全てを網羅する、もっとも親密な接し方かもしれないと思うのです。なぜなら、佐知子さんの料理に出会ったことで、なかなか覚えられなかった花の名前が、その香りや味、食感と共にしっかりと記憶に刻み込まれたのですから。ーおしまいー(「スロウvol.15」2009年春号掲載 写真/高原 淳)

話の主は…

ハートンツリー

鶴居村字雪裡496-4

TEL.0154 (64) 2542

https://heartntree.jimdo.com

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.15 early summer 2008より

https://www.n-slow.com/books/books-225

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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