2019 Apr
23

ギャラリー陶オーナー 丹後恵さん-3

訪れる人を野の花でもてなす

海に面している大樹町には、それはたくさん、野の花に出会える場所がある、と恵さん。いつの頃からか、早朝の花摘みを日課のようにしてきた恵さんならではのお花畑。モイワ山森林公園の麓にもたくさんのスポットがあって、恵さんは「アラ、こんな近くに?」と驚いてしまうような、それ程身近な花スポットに案内してくれた。普段、何気なく通り過ぎてしまいそうな、広い道から少し入っただけのところ。それなのに、林の中には一面に盛りを迎えた白いバイケイソウの花畑が広がっていて、クロバナハンショウヅルが伸びやかに蔓のような茎を伸ばし、小さなホオズキみたいな花を咲かせていた。朝の光を浴びて、黒というよりは深い赤紫がかった花の色。クロユリにも似た深みを持つ色。どうやら、あの青紫のテッセンの原種らしいのだけれど。形も色も、いったい何に意識を向けてもらおうとここまで進化を遂げてきたのだろう。ひっそりと、でもたくましいまでに命の営みを繰り返す野の花たち。誰もが通り過ぎてしまいそうな道端に降り立ち、林の中へと目を向け、植物たちの間をかき分けるように進む恵さんの世界を心底羨ましいと思っていた。

大樹の海へと向かう道すがら。ワタスゲの広がる湿地やトゲのある枝を地面にはわせながら赤みがかったピンクの花を咲かせているナワシロイチゴの様子。道端に車を停めながら、大樹という地域に咲く野の花のことを話してくれる恵さん。そうこうしながら、海へと向かって視界が広がりを持ち始めると思う間もなく、眼下に海岸沿いならではの野の花たちが姿を見せ始めていた。

原生花園としての名前こそ付いていないけれど、ここはまさしく天然の原生花園。砂浜に沿ってハマナスの丘が連なり、大きくて伸びやかなハマナスの花びらが潮風に揺れている。カキツバタ? それともヒオギアヤメ? 青紫の花とつぼみが青草の間から見え隠れして、その昔畑からこぼれて広がったのだろうか、小さな薄いブルーの花を咲かせているアサの花、そしてムシャリンドウなどの花。

砂浜に広がる一面のお花畑。東側には海に注ぐ川が流れていた。川の窪みに向かって歩きながら、恵さんは「この辺にヤナギトラノオが咲いているはずなんだけど」と立ち止まる。毎年毎年、幾度も幾度も大樹の砂浜に足を運んでいることが伝わってくる。

花のいっぱいある季節に、小さな子供とお母さんたちと野原に出かけ、花摘みをしてみたい。カフェは家族が手伝ってくれるようになり、これまでよりは自由になる時間がとれそうだからと、恵さんは夢を語る。摘んできた野の花を子供やお母さんたちと一緒に花器に生けていく。そう、これまでも恵さんが心がけてきたこと。地域の人たちと心通う場を共有したいという願い。すでに続けてきている子供たちに絵本を読み聞かせたり、自然体験活動を行っている「かしわの木の下で」の試みに、さらに野の花を楽しむ場づくりが加わったなら、どんなにか、ここ大樹での暮らしが楽しくなることだろう。少しずつでいいから、とにかく続けることが大切。恵さんは地域でできること、地域だからできること、地域文化を育てることについて、続けることの大切さについて何度も話してくれた。

大樹町に住む意味。ずっと、ここに住み続けたいから。ずっと、この地域を素敵だと思い続けたいから。恵さんの心に添えたらと願う。ーおしまいー(取材・文/萬年とみ子 撮影/高原淳)

ギャラリー陶オーナー 丹後恵さん-1
ギャラリー陶オーナー 丹後恵さん-2
■ギャラリー陶オーナー 丹後恵さん-3

話の主は…

ギャラリー陶

広尾郡大樹町萠和4856

TEL.01558‐63975

きょうの話は…

雑誌「northern style SLOW」vol.15 early summer 2008より

https://www.n-slow.com/books/books-225

※「northern style スロウ」は、2004年に創刊した北海道発の季刊誌です。
大自然の恩恵を受けながら、丁寧に心豊かに暮らしている人々を、これまでにたくさん取材してきました。
できるだけ多くの方々に伝えたくて、少しずつですがWeb Magazineで紹介していきたいと思います。
毎週月曜日に1話ずつ。ぜひお楽しみください。
http://www.n-slow.com/concept

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